メタバースを支える主要技術の全貌~3DモデリングからAI・ブロックチェーンまで~
メタバースは、インターネット上に構築されたデジタル空間です。このメタバースというデジタル空間を舞台に、世界中のユーザーが垣根なく交流することができます。メタバースでは自分の姿も自由にカスタマイズすることができ、現実とは異なる自分を演出することが可能です。メタバースは現実世界とは異なる可能性をユーザーに提供する、一種の仮想世界と言っていいでしょう。
こうしたデジタルの仮想世界を実現するには、多岐にわたる高度なテクノロジーが必要です。
この記事では、メタバースを構成する主要な技術要素について説明します。重要度の高いものから順にご紹介します。
モデリングとレンダリング技術
メタバースでは、建物、オブジェクト、キャラクターなど、あらゆるモノ(アセット)が3Dグラフィックスで表現されます。これを実現するために、3Dモデリングおよびレンダリング技術が不可欠です。これらの技術により、デジタル空間上にさまざまなアセットがリアルタイムに映像化され、ユーザーに美しい仮想世界の視覚体験を提供します。
3Dモデリングでは、デジタルアーティストがAutodesk MayaやBlenderなどの3D制作ソフトを用いて、建物やキャラクターなどのモノ(アセット)を制作します。
3Dモデリングは複数の工程からなります。まず、ポリゴンと呼ばれる三角形の集合を駆使して、建物やキャラクターなどの形状を作成します。次に、テクスチャリングと呼ばれる工程で、建物の建材の模様やキャラクターの肌や服の模様などを、ポリゴン形状にテクスチャ(画像)を貼り付ける作業があります。この作業を経ると、現実のような見た目のモノ(アセット)が出来上がります。静的な(動かない)アセットについてはこれで完了です。
キャラクターについては、さらに動かせるようにするためにリギングという仮想的な骨を入れる作業があります。次にアニメーション付けと呼ばれる工程で、歩く、走る、ジャンプするなどの動きの情報を骨に対して設定していきます。こうして、実際の人間と同じようにさまざまな動きができるキャラクターが出来上がります。
また、近年では3D制作ソフトで1から作るのではなく、フォトグラメトリなどの技術を使って、カメラから得た画像情報から3Dグラフィックスを自動生成することも多くなっています。こうした技術を併用することにより、低コストで大量のアセットを作成することができます。
レンダリング技術では、主にゲームエンジンがメタバースの3D環境の構築とレンダリングに使われます。これらのエンジンは、膨大なデータをリアルタイムで処理し、ユーザーにスムーズで直感的な体験を提供します。ゲームエンジンにはUnityやUnreal Engineなどの商用エンジンが使われることが多いですが、事業者によってはインハウスの自社開発エンジンを用いることもあります。こうしたゲームエンジンは、VulkanやWebGLといった、GPU(パソコンやスマートフォンに内蔵されたグラフィックスチップ)に命令して3Dグラフィックスを生成するための3D APIを巧みに操って、複雑なメタバースの世界を画面に描写します。
ゲームエンジンは、メタバースの世界におけるOSと言っても良いでしょう。
クラウドコンピューティングとエッジコンピューティング
メタバースの世界は膨大なデータと計算リソースが必要なため、クラウドコンピューティングの活用が非常に重要です。クラウド技術を使うことで、ユーザーは自分のデバイスの性能に依存せずに、高品質なグラフィックスやリアルタイムのやり取りが楽しめます。
また、メタバースでユーザー同士がリアルタイムに会話ややり取りをするためには、ネットワーク技術も大切です。特に、WebRTCのようなP2P(ピアツーピア)のネットワーキング技術は、通信遅延を減らしてスムーズなやり取りを実現します。たとえば、NTTコミュニケーションズが提供するSkywayや、世界的に広く使われているAgoraといったサービスがその代表例です。これらの技術は、音声やビデオ、データの送受信を効率よく行い、メタバースでのコミュニケーションを支える大事な役割を担っています。
ユーザーが作り出したコンテンツを保存するためのストレージ、ユーザーコミュニケーションを実現するためのネットワーキング、ユーザーのアカウント情報を管理するためのログイン管理、こうした様々な要件を満たすために、メタバース事業者は複数のクラウドコンピューティングサービスを併用して、メタバースサービス全体を設計することになります。 また、サービスが世界規模になってくると、エッジコンピューティングも重要になります。エッジコンピューティングは、低遅延かつリアルタイムの反応を提供するために、データ処理を地理的にユーザーに近いサーバーで行うことを指します。これにより、メタバース体験が遅延なくスムーズに行えるようになり、ユーザーの快適性につながります。
仮想現実(VR)と拡張現実(AR)
メタバースの中では、ユーザーがまるで現実のように感じられる体験を提供するために、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といった技術がよく使われています。これらの技術を活用することで、デジタルの世界でありながら、現実に近い感覚を楽しむことができます。
VRに特化した有名なメタバースサービスとしては、VRChatやResoniteなどが挙げられます。こうしたメタバースサービスでは、ユーザーが互いに仮想空間に没入し、その中で自由にコミュニケーションを取ったり、ゲームやイベントに参加したりすることが可能です。このように、VRやARは今までとは違った新しい形の交流を生み出しています。
VR(仮想現実)は、専用のヘッドセットを使って完全にデジタルな世界に没入する技術です。VRを体験すると、物理的な世界から離れ、3Dの仮想空間にいるかのような感覚を味わえます。Meta社のMeta Quest 3やApple社のApple Vision Proなど、最新のVRヘッドセットを使用することで、ユーザーはまるでその場にいるかのように、デジタル世界を体験できます。これらのヘッドセットは、頭の動きや手の動きをリアルタイムで追跡し、仮想空間内での動作をより自然に感じられるよう工夫されています。
AR(拡張現実)は、現実世界にデジタル情報を重ねる技術です。スマートフォンやAR対応のメガネを使って、現実世界に仮想のオブジェクトや情報を追加し、日常の風景がデジタルによってより豊かに感じられるようになります。たとえば、Meta社のOrionスマートグラスやMicrosoftのHoloLensなどを使えば、目の前の景色にナビゲーション情報を表示したり、家具の配置をシミュレーションしたりと、現実に新しい楽しみ方を加えることができます。
これらの技術は、ユーザーがメタバース内で視覚的・感覚的に現実に近い体験を得られるようにするための重要な基盤です。
現在はVRヘッドセットやARグラスの物理的制約(重い、熱をもつ、バッテリー寿命が短い)がありますが、技術革新により快適性が向上すれば、ユーザーはVRやARをやがて常用するようになっていくことが考えられます。VRおよびARへの最適化は、メタバースサービスの魅力を訴求するために、やがて必須の要素となっていくでしょう。
AIと機械学習
メタバース内では、膨大なデータの管理やユーザーとのインタラクションが発生します。AI(人工知能)と機械学習は、仮想キャラクターの自然な動作、ユーザー体験のパーソナライズ、さらにはメタバース内のリアルタイムの変化を適応的に対応するために利用されます。
たとえば、メタバース内での非プレイヤーキャラクター(NPC)は、AIによって人間らしい自然な反応をユーザーに返すことが可能です。AIはユーザーの行動や会話をリアルタイムで学習し、その情報をもとに次の行動を決定することができます。これにより、NPCは固定されたシナリオに従うだけでなく、プレイヤーの選択に応じて柔軟に反応し、より深みのあるインタラクションを提供します。結果として、ユーザーはより没入感のある体験を楽しむことができ、あたかも仮想キャラクターが「生きている」かのように感じることができます。
また、AIはメタバースにおけるセキュリティや不正行為の防止にも貢献しています。膨大な数のユーザーが同時に参加するメタバースでは、不正行為や悪意のある行動が発生するリスクもありますが、AIはこうした異常行動をリアルタイムで検知し、早急に対応することで、安全で快適な環境を維持する手助けをします。
さらに、最近注目を集めているのが、生成AIによる3Dアセットの自動生成技術です。これまでは、メタバース内の建物やキャラクター、アイテムなどの3Dアセットは、手作業で作成する必要があり、多大な時間とコストがかかっていました。しかし、生成AIを利用すれば、テキストプロンプトや参考画像を基に、リアルな3Dモデルを短時間で生成できるようになりました。この技術により、クリエイターはより少ないリソースで膨大なアセットを作成することができ、メタバース内の世界観や環境が急速に拡大することが期待されています。特に、個々のユーザーのニーズや好みに応じたオリジナルアセットの自動生成が可能となれば、パーソナライズされたメタバース体験が一層進化するでしょう。
このように、AIと機械学習はメタバースの中核を支える技術であり、今後のメタバースの発展においても不可欠な要素であり続けるでしょう。技術が進化するにつれて、さらに多くの自動化とパーソナライズが進み、ユーザー一人ひとりに合わせた独自の体験が提供される未来が見えてきます。
ブロックチェーン技術
メタバースの発展において、デジタル資産の所有権や取引は非常に重要な役割を担っており、これを支える基盤としてブロックチェーン技術が注目されています。ブロックチェーンは、分散型のデータベースとして、改ざんが難しく、取引の透明性やセキュリティが高いことから、デジタル資産の管理に最適な技術です。これにより、メタバース内で仮想通貨やNFT(非代替性トークン)を使って安全かつ信頼性の高い取引が可能となり、デジタルアイテムの所有権をユーザーが確実に証明できるようになります。
メタバース内でブロックチェーンが果たす役割の一つは、デジタルアイテムや資産の取引を円滑に行える点です。ユーザーは、仮想通貨を使って他のユーザーとアイテムを売買することができ、その取引はブロックチェーン上に記録され安全に行われます。この仕組みを通じてメタバース内での経済活動はより活発化し、ユーザー間での新しいビジネスモデルの創出も期待されます。
ブロックチェーン技術はメタバースを成り立たせる上で必須の技術ではありませんが、サービスに組み込むことでより多様なサービス・ユーザー体験を提供できます。
まとめ
メタバースは以下に挙げるような様々な技術要素によって構成されていることを説明しました。
1. 3Dモデリングとレンダリング技術:高品質な仮想空間の構築に不可欠な技術であり、リアルタイムレンダリングによるユーザーへの視覚体験を提供します。
2. クラウドコンピューティングとエッジコンピューティング:大量のデータ処理とユーザー間コミュニケーション、低遅延のリアルタイム体験を支えるインフラを提供します。
3. 仮想現実(VR)と拡張現実(AR):ユーザーに視覚的かつ感覚的に現実に近い没入型体験を提供します。
4. AIと機械学習:仮想キャラクターの自然な動作やユーザー体験のパーソナライズを実現し、メタバース内のダイナミックな環境を支えます。また、生成AIによるアセットの大量生産も実現します。
5. ブロックチェーン技術:デジタル資産の所有権管理と安全な取引を可能にし、経済的な側面を強化します。
これらの技術が統合されることで、メタバースはリアルタイムで高品質な仮想空間を提供し、ユーザーに対して没入型かつインタラクティブな体験を実現します。
特に、AIの進化やブロックチェーンの活用により、メタバース内でのユーザー間の交流や経済活動がさらに活発化することが期待されます。今後もこれらの技術の進化が、メタバースの拡大と多様な利用シーンの創出を支える鍵となるでしょう。
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