【行動経済学入門】プロスペクト理論とは?心理的に顧客を惹きつけるための活用法も紹介

私たちの意思決定は、損得勘定や感情の動きに大きく影響を受けます。このような心理を説明したプロスペクト理論は、さまざまな形で販促活動に生かされています。今回はプロスペクト理論の概要からマーケティングへの活用方法まで、詳しく解説します。人間心理と購買行動の関係性も分かりやすく説明していますので、ぜひご覧ください。
プロスペクト理論とは?
プロスペクト理論とは、ある事象が起こる確率や得られる損得が分かっている場合の意思決定を説明する理論です。私たちの意思決定は、必ずしも合理的に行なわれているのではなく、感情や感覚による歪みを伴っています。例えば、人は損失を過大に評価する傾向にあり、現実の損得と心理的な損得とが一致しません。セールの場面では、「今買わないと損をする」という感覚が強調されると、本来必要のない商品でも衝動的に購入してしまうことがあります。このような消費者の心理状況はマーケティング戦略に多く応用されています。
実験の概要

プロスペクト理論を提唱する際の実験方法として使われた『一つだけの質問による心理学』という手法を紹介します。
- 次の2つの選択肢を提示する
- A:無条件で確実に100万円を受け取れる
- B:コインを投げて表が出たら200万円受け取れるが、裏が出たら何も受け取れない
- AとBの条件の期待値(100)は全く変わらない。
実験の結果
上記の条件の場合、期待値が同じにも関わらず、ほとんどの人は「確実に100万円受け取れるAの選択肢を選ぶ」と言われています。この結果から、人は利益を得る場面ではリスクを避け、確実な選択肢を好むことが分かります。これはプロスペクト理論におけるリスク回避の傾向を示しており、たとえ期待値が同じでも、確実に得られる選択肢が好まれる傾向があります。
プロスペクト理論から分かる人間心理
損失回避
人は利益を得るよりも損失を避けることに強い動機を持ちます。例えば、スーパーで「今なら500円割引!」と言われるよりも、「今買わないと500円損します!」と言われた方が、より強く購入を促されることがあります。
参照点を基にした評価
人が意思決定を行う際には、絶対的な価値ではなく、ある基準点(参照点)をもとに評価を行う傾向があります。この参照点は、現状や期待、社会的な比較によって決まります。例えば、年収500万円の人が600万円に昇給すれば満足感を得ますが、周りの同僚が700万円に昇給した場合、「自分だけ低い」と感じ、不満を抱くことがあります。
利益や損失の増加に伴う感情の薄れ
利益や損失の増減に対する感情的な反応は、その増減に比例して大きくなるのではなく、徐々に鈍くなることが分かっています。例えば、1万円を拾うと大きな喜びを感じますが、すでに100万円持っている人にとっては、さらに1万円増えてもそれほど嬉しく感じないことがあります。逆に、1万円を失うと強いショックを受けますが、すでに大きな借金を抱えている人にとっては、さらに1万円の損失があってもそれほど気にならないことがあります。
安定志向とリスク志向
利益が出ているときには安定志向になる一方、損害が出ているときは、リスクを冒してでも利益を目指す心理が働きやすくなるのです。例えば、株式投資では、すでに利益が出ている場合、「確実に利益を確保しよう」と考え、早めに売却する人が多くなります。一方で、損失を抱えていると、「まだ回復するかもしれない」と期待し、リスクの高い銘柄を持ち続けたり、さらに買い増しをしたりすることがあります。
マーケティングへの応用

損失の強調
人が利益よりも損失を重く評価する性質をふまえて、危機感を煽るマーケティング戦略が存在します。例えば、「今契約しないと〇〇円の割引が受けられません!」や「残りわずか!この機会を逃すと二度と手に入りません!」といった表現は、顧客に「今決断しないと損をする」という心理を植え付け、行動を促します。
リスク保障の充実
損失の強調とは反対に、顧客の不安を取り除くことで購入を促す技術がリスク保障です。商品を買って、もし失敗したと感じても大丈夫という安心感を与えることができます。例えば、返金保証、分割払い、カスタマーサポート、修理保証などが挙げられます。
文章表現の使い分け
プロスペクト理論を実際の文章表現に応用したのが「フレーミング効果」です。フレーミング効果とは、表現の仕方によって受け手の印象が変わり、意思決定に影響を与える心理効果のことです。例えば、サプリメントのキャッチコピーを比較すると、
- 【A】 毎日続けた人の85%が体調の変化を実感!
- 【B】 毎日続けても15%の人は変化なし
多くの人が【A】を選ぶはずです。効果を前向きに伝えることで、購入意欲を高めることができます。
プロスペクト理論の活用例
ポイントの使用期限通知
買い物や食事をするとポイントが付くサービスは、ネットショッピングや飲食店など幅広く展開されています。このポイントサービスを行う際には、ポイントの使用期限を設け、通知するとより有効です。消費者は「貯めたポイントを失うのはもったいない」と感じ、ポイントを利用しようと再度買い物や食事をするため、消費を促進することが可能です。
返金キャンペーン
返金キャンペーンは、購入後に満足できなかった場合でも損失を回避できるという安心感を提供します。企業側には返品のリスクが伴いますが、日本では返品率が比較的低いため、この手法は効果的です。顧客にとってリスクが低いため、初めての製品やサービスの購入を促進できます。
キャッチコピー
キャッチコピーには、損失回避やリスクを意識させる表現が多く使われます。例えば、保険や防犯サービスの広告では、「備えていますか?もしもの時に後悔しないために」といったフレーズがよく見られます。これは、「対策をしないと損をするかもしれない」という心理を刺激し、行動を促す狙いがあります。伝え方を工夫するだけで、顧客の意思決定に大きな影響を与えられるため、非常に効果的です。
プロスペクト理論の注意点
損失回避バイアスの過度な利用に注意
損失回避の心理を利用したマーケティングは効果的ですが、過度に活用すると逆効果になる可能性があります。例えば、「今すぐ契約しないと将来大損します!」といった極端な表現を使いすぎると、顧客が不信感を抱き、ブランドイメージが悪化する恐れがあります。適度なバランスを保ち、信頼を損なわないよう注意が必要です。
ネガティブフレーミング
同じ事実でも、表現の仕方によって受け手の印象が変わるため、ネガティブな言い方が強すぎると逆効果になることがあります。例えば、「この保険に加入しないと将来困る可能性があります」と伝えるより、「この保険に加入すれば将来も安心です」とポジティブに伝えた方が、顧客の抵抗感を減らせることがあります。そのため、状況や目的に合った適切なフレーミングを選ぶことが重要です。
まとめ
今回の記事では、プロスペクト理論から分かる人間心理や、それを生かしたマーケティング戦略の立て方、活用時の注意点まで解説しました。言葉選びが重要となる広告作成などで活用しやすいのがプロスペクト理論です。顧客にとっての自社イメージを印象深いものにするために、取り入れてみてはいかがでしょうか。