マーケティングコラム

【アド論アーカイブ】NETFLIX vs 北海道の小さな書店 ~究極のパーソナル化とは何か?を考える~

2020.11.24Column
【アド論アーカイブ】NETFLIX vs 北海道の小さな書店 ~究極のパーソナル化とは何か?を考える~

あなたが今、自分のPCやスマホでこのコラムを読んでいるのなら、ブラウザをもうひとつ立ち上げてamazonやYouTubeを開いてみてください。

・・・開きましたか?

そして今開いたその画面、あなたの同僚や友人にそのままの状態ですぐに見せることができますか?

ちなみに、私はできることなら見せたくありません。
なぜなら、リコメンド欄が●●●(自主規制)な動画や●●●(自主規制)な書籍で埋め尽くされていて、自分の性癖や嗜好が丸裸にされてしまっている感じがとても恥ずかしいから。

さて、本題。

なぜ私にこのような恥ずかしい現象が起こってしまうかというと、それは私のAmazonやYouTubeが過去の閲覧履歴や購入履歴によって「パーソナル化」されているからなんですね。

この怖い、もとい便利な機能、今やECや電子書籍、動画配信といったサービスでは当たり前のように備わっています。
そしてその究極系といわれているのがNETFLIXのレコメンデーション機能です。

自分好みのコンテンツに出会う確率を上げる、NETFLIXのパーソナル化

NETFLIXでは、ユーザのあらゆる視聴行動をデータとして蓄積・分析し一人ひとりに最適なコンテンツをレコメンドするシステムを構築しています。
それがどのくらいのレベルかというと「具体的には、どのコンテンツを見たのか、あるいは見なかったのか、どのくらいの速度で見たのか、どのデバイスで見たのか、1日のいつ見たのかといったことです。夜見たいものと昼に見たいものでも変わってきますから。 コンテンツについては、監督やキャスト、脚本はもちろん、どれくらい見る人にとって複雑な内容か、シーンの数、ロケーションの数といったデータを組み合わせて、それがメンバーに合ったものかを検討します。(グレッグ・ピーターズ氏インタビュー/日経トレンディネット2018年6月7日より)」というように、ユーザの行動やコンテンツ内容をたくさんのファクトに分解し、それを組み合わせて分析することで究極のパーソナル化を実現しています。
そして同じタイトルを推奨する場合でも、ある人にはアクションシーン、ある人には出演俳優、という具合にレコメンドバナーの訴求までユーザ一人ひとりに合わせて変えています。
そしてこれらのことによって、ユーザが自分好みのコンテンツに出会う確率を飛躍的にあげているのです。

その人に合った新しい価値に出会わせる、いわた書店のパーソナル化

次にNETFLIXとは対照的な形でパーソナル化したサービスを提供している書店の例を紹介します。

北海道・砂川市の「いわた書店」では『カルテ』と呼ばれるアンケートにもとづいて、店主が読み手に合わせたオススメの本を一万円分提案してくれる取り組みを行っています。NHK「プロフェッショナル」にも取り上げられ、現在3,000人待ちという状態とのこと。

(以下、NEWSポストセブン2016年4月17日記事より引用)
店主の岩田徹氏は2007年、客の人生観などを聞き取った上で1万円分の書籍を送る「1万円選書」を始めた。“カルテ”と呼ぶアンケート用紙には読書歴に加え、「人生で嬉しかったこと、苦しかったこと」「何歳の時の自分が好きか?」「これだけはしないと決めていることは?」「あなたにとって幸せとは?」などの質問が並ぶ。
岩田氏は“カルテ”を丹念に読み、時にはメールでやり取りを重ねた上で本を選び発送する。「親の指示通りに生きてきてしまった」と後悔を綴った30代の女性には、児童虐待をテーマにした『きみはいい子』を選んだ。回答と無関係に思えるが、意図がある。
「その気持ちのまま過ごすと、子供にも自分の考えを押しつけ、気付かないうちに手を上げてしまう。言葉で忠告するのではなく、本というオブラートに包むと伝わりやすくなるはず」(引用ここまで)

このいわた書店の取り組み、NETFLIXのレコメンドと決定的に違うのは店主の意思が強く介在していること。
ユーザのこれまでの人生や考え方を丹念に読み解き、考え抜いた末に薦める1冊は、その人に全く新しい価値観を与えるレコメンドといっても良いかもしれません。

最後に

今回紹介した2つの対照的なレコメンドサービス。
もちろん、どちらかが良くてどちらかが悪いというわけではありません。
前者が「その人がもともと好きなものに出会う確率を高めるサービス」だとしたら、後者は「その人にとって新しい価値、新しい世界に出会わせてくれるサービス」

ECの中でも、特に電子書籍や動画配信といったエンタメコンテンツを販売するサービスにとっては「どちらが必要か?」ではなく「どちらも必須」と考えるのが正解だと私は思っています。

そこに行けばいろいろな新しいワクワクを発見させてくれる、そんな素敵なお店が増えることを願いつつ今回はこの辺で。

※アド論掲載日 2019年4月23日

神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ライター:神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ストラテジックプランナー、リサーチャー。Webプロモーションの戦略立案、Web広告効果の分析・オプティマイズ、各種リサーチなどを担当。前職はマーケティングリサーチ会社にて主に広告効果の調査・分析・研究業務に従事。2004年より現職。
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