迫り来るIDFA取得のオプトイン化に向けてマーケターが今とるべき対策
昨年、モバイルアプリの広告に関わる方々を戦慄させた話題と言えば、Intelligent Tracking Prevention(ITP)に続き、Apple社が発表した「IDFA取得のオプトイン化」かと思います。
当初はiOS14とともに2020年9月にリリース予定される予定でしたが、2021年初めに延期となって一安心したのも束の間、気づけば新年を迎えておりました。遅ればせながら明けましておめでとうございます。皆様、心(とアプリ)のご準備はいかがでしょうか。
私自身、情報収集していく中で、「IDFA取得のオプトイン化」はその情報量の多さと複雑さゆえに「いざリリースされた際に自社アプリの広告に何が起こり、どう対応すべきか」が想像しにくくなっているように感じました。そこで、今回はIDFA取得のオプトイン化がもたらす変化と影響、マーケターとしてどう対応していくべきかをポイントに絞って解説していきます
目次
・IDFA取得のオプトイン化とは何なのか
・広告にもたらされる変化
・広告運用に生じるネガティブな影響
・IDFA取得のオプトイン化に立ち向かうマーケターがとるべき対策とは
■ IDFA取得のオプトイン化とは何なのか
最初に、今回の主役である「IDFA」についてご紹介します。
IDFA(Identifier for Advertisers)は、すべてのiOS端末に割り振られているユニークなIDの1つです。広告ID、広告識別子とも呼ばれ、その名の通り、アプリの「広告配信」や「広告効果計測」等の広告目的で端末を識別するために利用されてきました。
これまでは、基本的にアプリはユーザーのIDFAを自由に取得できましたが、これを許可制に変える取り決めが「IDFA取得のオプトイン化」です。オプトイン化後、アプリがIDFAを取得するにはApple社の App Tracking Transparency(ATT)という仕組みを利用し、ユーザーに対してIDFA取得の許諾確認を行うダイアログを表示させる必要があります。ダイアログの表示は、原則1ユーザーにつき1度きりです。そこで許可を得られなければ、アプリはそのユーザーのIDFAを取得できなくなります。
■ 広告にもたらされる変化
さて、IDFA取得が許可制になると何が起きるのでしょうか。
まずIDFAを取得できるiOS端末の数が大幅に減少すると考えられています。
普段WEBサイトやアプリを利用していて突然ポップアップやダイアログが表示されると、内容に関わらず身構えてしまうのは私だけではないと思うのですが、今後IDFAを取得するアプリでは、「あなたを追跡する許可を求めています」という、なかなかにパンチの効いたメッセージが表示されるようになります。そうなれば、昨今プライバシーに対する意識が高まっていることもあり、「同意」を選ぶユーザーが多いか、「拒否」を選ぶユーザーが多いかは言わずもがなという訳です。
IDFAを取得できる端末数が減少すると、冒頭でお話したIDFAによる「広告配信」と「広告効果計測」が今まで通りには機能しなくなります。なぜなら、広告目的でIDFAを利用するには、多くの場合、広告配信先アプリと広告主アプリ双方で対象ユーザーが使用する端末のIDFAが取得できている必要があるためです。いずれかのアプリでもIDFAを取得できていないユーザーが大半という状況になれば、IDFAは広告配信や広告効果計測において識別子としての役割を果たしにくくなります。
具体的には、広告配信の面では、「リエンゲージメント配信やターゲティングの性能が低下する、または、実施不可能になる」、広告効果計測の面では、「IDFAを使った計測を中心としてきた媒体が、他の計測手法を併用する、または、完全に他の計測手法に切り替える」といったことが起こると考えられています。実際に、このような発表をした媒体社も出てきている状況です。
■ 広告運用に生じるネガティブな影響
こうなりますと、広告運用にも喜ばしくない事態が生じてきます。
特に影響度合いの大きいものを2つ上げるとすると、1つは「広告効果の悪化」です。
IDFAによるターゲティング精度の低下やターゲティング可能なユーザーの減少等により、オプトイン化前に比べて、同じコストをかけても同じだけの成果を得られにくくなり、広告経由の成果が減少すると考えられます。
もう1つは「従来の方針による広告評価が困難になること」です。
今後のiOSにおける広告効果計測では、媒体が採用している計測手法によって計測ルールや計測可能なデータが異なります。そのため、IDFA計測から他の計測手法に変わると、これまでと同じ条件では計測できなくなります。特にApple社が提供するSKAdNetwork計測に切り替える媒体には注意が必要です。ユーザーのプライバシーを保護しながら流入元を計測できる反面、「リアルタイム計測ができない」「WEB面の計測ができない」「アプリ内行動(イベント)の計測が困難になる」「計測可能な指標が限定的になる」といった制限事項が多く、従来のスピード感や指標では広告を評価することが困難になる可能性が高くなっています。
■ IDFA取得のオプトイン化に立ち向かうマーケターがとるべき対策とは
このように「IDFA取得のオプトイン化はどえらいものをもたらしそうだ」ということは何となくお分かりいただけたかと思います。これまでの広告の常識が覆される時代が訪れようとしていますが、残念ながら、これらの事象を回避する手立ては現状ありません。今、マーケターとしてできる対策は、「媒体社、計測ツール会社、Apple社への継続的な情報収集」と「自社アプリにおける広告への影響を把握し、広告配信と評価の方針を見直すこと」に尽きると考えます。
1. 媒体社、計測ツール会社、Apple社への継続的な情報収集
まずは、自社アプリを取り巻く状況を正しく理解するために必要な情報を集めましょう。
今後も自社アプリでIDFAを取得する方針であればApp Tracking Transparencyを、出稿中の媒体によってはSKAdNetwork計測を調べ、導入する必要があります。そして、IDFA取得のオプトイン化による影響は、媒体はもちろんのこと、計測ツールによっても微妙に異なってきます。出稿媒体の配信メニューや機能、計測手法がどのように変わるのか、導入している計測ツールはどのような方針で対策を講じるのかを理解しなければなりません。
2. 自社アプリにおける広告への影響を把握し、広告配信と評価の方針を見直すこと
必要な情報を揃え、広告への影響を整理していくと、おそらく「今までできていた配信が全くできなくなった」「配信はできるが、効果計測ができない」「以前よりも広告経由のインストール数、イベント数が減少する」「従来の計測指標は確認できなくなる」といった何かしらの壁にぶち当たる場面が出てくるはずです。その時に、新しい媒体を探すのか、効果を可視化できなくとも広告配信を続けるのか、どうすれば各媒体を評価できるのか、1つ1つ答えを模索しておく必要があります。
実際にIDFA取得のオプトイン化がリリースされない限り、想定される課題に対して正解を導き出すことは難しいですが、まずはこの事象を正しく理解し、自社のアプリに合った最適解を持っておくことができれば、いざ直面した際の初手はもちろん、次の一手、二手を打てるスピードは格段に変わってくると思われます。
この記事が、少しでも皆様のお役に立ちましたら幸いです。
なお、IDFA取得のオプトイン化による変化と影響について、より詳しく解説した資料を以下からダウンロードいただけます。
ご希望の方はページ下部のフォームリンクよりご請求ください。
- ライター:藏坪 幸(くらつぼ みゆき)
- 慶応義塾大学 総合政策学部卒業。
オンラインゲーム運営会社を経て、2017年に入社。
ウェブ解析士としてadjustやAppsFlyerなどのアプリ計測ツールの計測サポートやGoogle Analyticsを用いたアクセス解析に従事する。