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社会課題を押し付けない。女子大生が挑む、親しみやすいSDGs啓発のあり方 TOPPAN キャンパスラボ 中山柚希✕坂口真依子✕井上登美

2024.11.01Premium Contents
社会課題を押し付けない。女子大生が挑む、親しみやすいSDGs啓発のあり方 TOPPAN キャンパスラボ 中山柚希✕坂口真依子✕井上登美

「キャンパスラボが取り組んできたことは、“ウェルビーイング”の創造です」

TOPPAN株式会社(以下、TOPPAN)が運営するプロジェクトチーム「キャンパスラボ」。2015年に設立され、女子大生が若者視点でマーケティングから商品開発、啓発施策を考え実行するこのチームは、これまで数々の共創プロジェクトに携わってきました。

キャンパスラボは現在、企業・自治体の課題解決への貢献を通じて、SDGsなど社会課題にも取り組み続けています。およそ10年の歩みと現在の取り組みにかける想いを、代表兼プロデューサーの中山柚希さん、そしてチームメンバーの坂口真依子さん(お茶の水女子大学4年生)、井上登美さん(國學院大學3年生)に伺いました。

インタビュアーは、神津洋幸(TRUE MARKETING副編集長/Z世代トレンドラボ研究員/ストラテジックプランナー)と平井かのん(ショートムービーグループ プランナー/Z世代トレンドラボ研究員)が務めます。

(執筆:サトートモロー 進行・編集:神津洋幸)

若い世代の声を社会に届けたい。キャンパスラボ創設のきっかけ

神津:
キャンパスラボについて、具体的な事業内容を教えてください。

中山:
キャンパスラボは、社会貢献と自己成長の意欲を持つ女子大生が、マーケティングに取り組むプロジェクトチームです。多種多様なバックグラウンドやサービスを持つ企業や自治体をお客様に持ち、商品開発やプロモーションの企画・制作・実行を担当しています。

神津:
インフルエンサーとして女子大生アンバサダーをキャスティングするのではなく、社会貢献を根底にプロジェクトを展開している点がユニークだと感じました。

中山:
そうですね。女子大生アンバサダーは単なるタレントではなく、オピニオンリーダーとして共創の仕組みを作っていきたいと考えています。

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神津:
坂口さんと井上さんは現在、どのようなプロジェクトを担当しているのですか?

坂口:
私は主に、子宮頸がん検診の啓発施策や生理用品のマーケティング企画など、フェムケアの分野に参加しています。また、キャンパスラボのリクルーティングも担当していて、キャンパスラボに興味がある学生への声がけなども行っています。

井上:
私は青森県つがる市のまちおこしなどに関わってきました。現在はキャンパスラボが運営する「Cheer!SDGs」の編集長として、「オシャレに、暮らそう」を合言葉にSDGsを親しみやすく感じてもらえるコンテンツを発信しています

神津:
ラボの中心として、さまざまなプロジェクトに関わっているのですね。中山さんはキャンパスラボを学生時代に設立したと伺っています。立ち上げに至った経緯についてお話しいただけますか?

中山:
私は2013年、大学3年生で青山学院大学の「ミス青山コンテスト2013」に出場しました。キャンパスコンテストは大学の垣根を超えて、さまざまな大学のコンテスト関係者の方々とも知り合えます。

一気に交流の幅が広がっていく中、あるお菓子メーカー様から「若い世代向けのスイーツを開発したい」と声をかけていただきました

初めて経験するプロジェクトを通じて、私はどんどんマーケティングの世界にのめり込んでいきました。同時に、若者たちのリアルな声を聞きたいという企業や社会のニーズは、私が想像する以上に高いことも知りました。

自分たちの感性は、企業の方々にとって当たり前ではないんだ。私たちの感性を伝えることは、ビジネスや社会の貢献につながるんだ。この気付きを社会に活かしたい、女性マーケティングを極めたいと思い、女子大生によるマーケティングプロジェクトチーム「キャンパスラボ」を立ち上げました

神津:
2013年頃といえば、今ほど「Z世代」など若者世代への注目は集まっていなかった印象があります。若い世代の声を届けるという点で、キャンパスラボは先駆けのような存在だったのですね。その後、中山さんは2016年にTOPPANへ入社したのですよね。

中山:
お菓子メーカー様との取り組みを通じて、この活動を広げたいと思い始めたタイミングで、TOPPANの新規事業の担当者と知り合う機会がありました。担当者は私たちの活動にも興味を示してくれ、いろいろとアドバイスをもらいながら「TOPPANの事業として一緒にやらないか」と声をかけてもらったんです

その後、採用試験を経てTOPPANに入社し、入社1年目からキャンパスラボの事業化を任せてもらっています。

「Cheer! SDGs」を通じて養う「物事の良さを考える力」

神津:
井上さんが編集長を務める「Cheer! SDGs」の、具体的な活動内容について教えてください。

井上:
主に行っているのは、公式サイトとInstagramアカウントの運営です。メンバーが興味のあるネタを持ち寄って、記事にしたりSNSに投稿したりしています。関係者への取材依頼や原稿確認の依頼、アクセス分析などを行うのも編集部の仕事です。

アクセス分析では、みんなで伸びた投稿・伸びなかった投稿の原因を探り、「次はこういう投稿(記事)にしていこう」と意見を出し合っています。

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平井:
私たち広告代理店と同じアクションを取っているのですね。

中山:
「Cheer! SDGs」はSDGsをもっと広めたいというメンバーの要望を受けて、自主プロジェクトとして立ち上げました。そのため特定のクライアントはおらず、通常は純粋にメンバーが興味を持っている商品やサービス、トピックを題材にコンテンツを制作しています。

メディアで取り上げる内容については、毎月必ずネタ出し会議をおこなっています。そこではグルメ、コスメなど担当領域を決めて、アイディアを持ち寄ってもらうんです。

記事のネタは商品やブランドにかぎらず、シーズナルイベントや最近のトレンドなど、さまざまな切り口から出してもらいます。それをメンバー内で発表して、ひとつずつ担当するネタを決めて記事を作成していきます。

神津:
てっきり広告記事として、企業から依頼を受けて全ての記事を書いていると思っていました。そうではなく、「ここを取り上げたい」という企画から始まって、皆さんから取材依頼を出すことも多いのですね。

中山:
「Cheer! SDGs」の運営は、メンバーにとって大きな学びの場になっていると考えています

SDGsにかぎらず、私たちのもとにはさまざまなご依頼が来ます。プロモーションのお手伝いをするためには、ターゲットの視点で、「その商品やサービス、自治体の良さは何か」を掘り下げなくてはなりません。

その良さをうまく伝えるには、表現力も必要となります。メディア運営の経験は、メンバーにとって「物事の良さを考える能力」を養うきっかけになっているんです

平井:
物事の良さを洞察して、その価値を言語化してわかりやすく発信できる力を持っているというのは、依頼する側からすれば非常に心強いポイントだと思います。ユーザーに対しても、説得力のあるコンテンツを届けられる点も、非常に素晴らしいです。

10年間の活動で見てきた若者世代の変化

神津:
青森県つがる市の取り組みについては、TikTokでの動画を拝見しました。発信源としてショート動画を活用するという点は、若い世代らしいユニークな取り組みだと感じました。
https://www.tiktok.com/@tsugarucity?is_from_webapp=1&sender_device=pc

中山:
つがる市のプロジェクトは今年4年目で、歴代のメンバーが現地の高校生と一緒に地域の魅力を発見し、ポスターのコンセプトやコピーなどを考えてきました。2024年はショート動画に力を入れようということで、メンバーや現地の高校生と一緒に企画を創り上げています。

井上:
つがる市の魅力を伝える『新解釈つがる。辞典』は、高校生の皆さんと毎年制作しています。

https://www.city.tsugaru.aomori.jp/soshiki/keizai/tokyooffice/tsugarufanclub/8086.html

平井:
私は普段、動画のプランニングや撮影などを担当しており、その一環としてTikTokなどのショート動画も制作しています。日常的にTikTokをよく見る世代でもあるのですが、皆さんの動画はユーザー視点での面白さがあり、非常にUGCを意識していると感じました。

CMのような表現や素材を用いたり、AMSRのようなTikTokのトレンドを押さえた表現も使用したりなど、「見せる」ためのしかけが散りばめられていてすごいなと。

キャンパスラボでの活動において、皆さんが動画を編集をすることもあるんでしょうか??

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井上:
はい。キャンパスラボの自主メディアをはじめ、共創プロジェクトで制作する広告なども、自分たちで編集することがあります。基本的にはTikTokアプリなどで使用できる編集機能を活用しています。

平井:
皆さんは20代前半ということですから、ショート動画や動画編集というのは、身近な存在だったのでしょうか?

井上:
そうですね。動画の内容を考えることや撮影や編集することについて、特に大きな抵抗はありません。

中山:
私は10年間、彼女たちに接してきましたが、自分が学生時代だった頃とは価値観が大きく変化していると感じます

例えば私が学生時代の頃、動画というのは動画を撮ったり編集したりするのは、卒業式など大切な思い出を残すときに限定されていました。

今の高校生・大学生は、動画の編集・発信を当たり前のように行っています。

クリエイターやインフルエンサーのように、ターゲットに響く動画をどのように発信すればいいか、日常的に考えている方も多いです。

動画にかぎらず、SDGsやWebリテラシー、金融リテラシーの捉え方も様変わりした気がします。10年前、資産運用に取り組む女子大生は周りにほとんどいませんでした。それが今や、ライフワークや趣味の一環として投資に取り組んでいる方がいるほどです。クレジットカードも、当然のように2〜3枚と複数持っています。

神津:
ECでの買い物が前提の現代社会において、クレジットカードは必須ですよね。生活様式の変化に伴い、若い世代の価値観も変わってきているのですね。

コト消費の先へ。社会課題との距離感を縮められるメディアでありたい

神津:
中山さんは先ほど、10年間で変化してきた価値観のひとつにSDGsも挙げていました。井上さんと坂口さんの世代は、私よりもはるかにSDGsとの「距離感」が近い気がします。ぜひこの点について、当事者であるお二人の考えを伺いたいです。

井上:
確かに私たちの世代は、高校生からSDGsや環境に関する授業を受けているので、SDGsは身近な存在だと思います。

坂口:
自然と紙ストローや竹で作られたフォークを使っているなど、環境に良い行動を取っている人は多いです。家族みんなでSDGsを意識した商品を使っている友人もいて、彼女からおすすめしてもらった商品を「Cheer! SDGs」で紹介したこともあります。

坂口:
ジェンダー平等についても、大学ではジェンダーに関する講義が多く、周囲には柔軟な価値観の人が多いです。同性カップル等に否定的な人はとても少ないと思います。

坂口:
一方で、「SDGs啓発メディアを運営しています」と話すと、周囲からは“意識高い系”として捉えられやすいです。この点については、もっとフラットに「SDGsや環境について考えることは当たり前」という風潮になってほしいですね。

井上:
SDGsは災害や紛争、ジェンダー平等など現代社会に存在する問題を解決するために定められた目標です。ですが、こうした問題を「解決しなくてはならない!」という義務として啓発しようとしても、価値観をうまく共有できません。

そこで、「Cheer! SDGs」ではもっとSGDsを日常の中に溶け込んでいるものとして発信したいと思っています

神津:
環境やジェンダーなど、重々しくなりやすい話題をそのままの形で発信せず、受け入れやすい切り口や伝え方を考えて発信しているということでしょうか?

井上:
そうですね。「社会問題に取り組まないと大変なことになる!」という伝え方をすればするほど、むしろ人々とSDGsとの距離感が離れてしまいます。そうではなく、親しみやすい、オシャレ、かわいいといった表現やテーマを切り口にすることで、SDGsに関する情報に触れるきっかけを作っていきたいんです。

坂口:
企画を考えるときも、メンバーが普段から使っているもの、本人が好きだと思えるものから厳選して発信しているんです。「これ好きかも」という気持ちを、SDGsについて知るきっかけにしてほしい。そんな想いで私たちは記事を書いています。

神津:
あえてハードルを低くすることで、SDGsの入口の機能を果たそうとしているのですね。

中山:
今の日本を取り巻く要因は、ポジティブなものばかりではありません。災害をはじめとした環境問題や紛争、戦争、年金問題など、さまざまなリスクが混在しています。キャンパスラボのメンバーは、ある意味そうした不安と常に向き合い続けている世代かもしれません。

数々の問題を前にして、「将来に備えなさい」「環境に良いものを使いなさい」「多様性に配慮しなさい」と伝えても、押し付けになってしまいます。これからの時代のためにやるべきことを、「我慢する」のではなく、「いかに前向きかつハッピーに捉えられるか」

ここにこそ、大きなニーズがあると私たちは考えています。

井上:
「Cheer! SDGs」のコンテンツ制作では、「地球に良いことをすることでハッピーな気持ちになる」そんな意識にアプローチしたいという意図があります

例えば、表参道のフラワーショップ「CQ Décoration by Hanahiro」さんは、結婚式場に併設されているお店で、披露宴やブーケで使用されたお花の余りを廃棄せず、リメイクして販売しているんです

そのままでは捨てられてしまうお花を買うことで、地球に良いことをしたという気持ちになれるし、普通より安く購入できるのでとてもお得。しかも、結婚式というハレの舞台で使われていたので、幸せなエネルギーをもらえそう。

そんなトリプルの「良いこと」が詰まった商品を取り扱っているんです。

お花を捨てないお花屋さん | おしゃれに暮らそうCheer!SDGs

神津:
捨てられてしまうはずだった花から、たくさんの付加価値を生み出した事例ですね。

坂口:
私はサウナが大好きで、Instagramにて環境に配慮したサウナアイテムを紹介しました。

すべての製品がリサイクル可能か土に還る素材を使用していて、そのアイテムを使うだけで、自分がスッキリできるだけでなく、地球にもプラスになるサウナ体験ができます。

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神津:
使うことで二重三重にハッピーな気持ちになるという点で、とても素敵なお買い物ですね。

この10年ほど、人々の欲求は「モノ消費」から「コト消費」へと移ってきましたが、キャンパスラボが提案する商品・サービス選びのあり方は、コト消費のさらに一歩先を行くのかもしれません。

その商品を購入することが、社会に貢献することにつながる。消費に社会的意義を持たせることで、今までとは異なる喜びを与えているのかなと。それが、結果として商品選びの意識を変えることにつながると感じました。

ウェルビーイングの創造で女性をよりハッピーに

神津:
中山さんは現在、キャンパスラボの事業をさらに発展させるためにどのような展望を描いていますか?

中山:
現在、ビジネストレンドとして「ビヨンドSDGs」としてウェルビーイングが注目されています。ウェルビーイングの世界では、社会とって良いことだけでなく、一人ひとりの毎日をよりハッピーに過ごせる商品・サービスを選ぶようになってきていると感じています。

キャンパスラボが取り組んできたことは、まさにこの「ウェルビーイング」の創造です。深刻な社会問題が存在する中で、どうすればハッピーに生きられるのか。そもそも一人ひとりにとって「ハッピーに生きる」の定義はなにか。そんなことをメンバーとともに探求して、社会に対して提言していきたいと思っています。

キャンパスラボでは現在、卒業したメンバーが100名を突破しました。そして2024年5月、卒業生による女性ウェルビーイング創造プロジェクト、「C*(シーアスター)」を発足しました

https://c-aster.jp/

学生時代にさまざまな将来を思い描いて社会人となったOGメンバーは、キャリアや結婚、出産、子育てなどにおいて、多様な悩みや不安に直面しています。C*ではそういった女性一人ひとりのリアルな声から社会課題を掘り起こし、解決するための商品・サービスを生み出していきたいと考えています。

キャンパスラボとC*の両方を通じて、女性がいかにハッピーに生きられるかにフォーカスした活動を、さらに強化していきたいです

神津:
大学生としての取り組みと社会人としての取り組み。その両方の視点から課題の発見と解決に挑めるのは、まさに10年の継続があるからだと思います。ますます、今後の活動が楽しみです。

坂口さんと井上さんは、今後キャンパスラボでどのような活動をしていきたいですか?

坂口:
キャンパスラボでは、メンバーやOG、企業・自治体の皆様など多くの方々と関わる機会があります。そこで交わされるコミュニケーションやディスカッションを通じて、多様な価値観を柔軟に取り入れていきたいです。

また今後は、現在大学で専攻している特別支援教育について企画するなど、好奇心・挑戦心から生まれた自分の気持ちを純粋に信じて、できることをどんどん増やしていきたいと思います

井上:
ウェルビーイング視点が大切な時代に対して、女子大生ならではの視点でニーズやトレンドを伝えられるよう、私自身も変化していきたいと思います。そして、キャンパスラボをスタートさせた柚希さんのように、自分の力を信じて世の中を切り開いていく強くてかっこいい女性になりたいです

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神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ライター:神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
ストラテジックプランナー、リサーチャー。Webプロモーションの戦略立案、Web広告効果の分析・オプティマイズ、各種リサーチなどを担当。前職はマーケティングリサーチ会社にて主に広告効果の調査・分析・研究業務に従事。2004年より現職。
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