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トップマーケター長瀬様インタビュー コロナ禍の今だからこそ改めて意識すべきマーケティングの本質

2020.11.24Premium Contents
トップマーケター長瀬様インタビュー コロナ禍の今だからこそ改めて意識すべきマーケティングの本質

コロナ渦による消費行動の変化、それによるDX(デジタルトランスフォーメーション)の加速など、企業のマーケティングは今まさに変革の時期に差し掛かっている。

日本ロレアル初代CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)、インスタグラム・ジャパン初代日本事業代表責任者などを歴任し、現在も日本のトップマーケッターとしで活躍中の長瀬次英さんに、今だからこそ改めて意識すべきマーケティングの本質について語っていただいた。

ビジネスの本質は「人と人とのコミュニケーション」

【五十嵐】
ーー昨年あたりからトレンドワードとなっていたDXですが、コロナ禍以降はより現実味のある言葉となり、企業は経営層から現場社員までどのように対応・導入してくべきか頭を悩ませています。

今後ますますDX化の流れが加速されると予測される中、日本のマーケティングはどのように変化すると考えていますか?
これまで広告主、代理店、メディアと様々な立場からマーケッターとして現場を見てきた長瀬さんのご意見を是非お聞かせください。

【長瀬】
会社の規模や事業体、サービスの有り方など様々だと思うので一概にはこれがDXだと語れないとは思います。
ただ忘れてはいけないのは、ビジネスの本質は「人を動かす」ということ。
特に、日本のマーケットは、外国に比べると、よりウェットで「人」を中心に動いていると感じています。

人を動かすために、やはり最終的には「人と人とのコミュニケーション」。
そのコミュニケーションを円滑にするためにデジタルを使う、そしてそのインパクトを強く残すことができたときに、「デジタルシフト」という言葉に近づいていくのだと思います。

そういえば、デジタルって「アルコール」に似ていると思いませんか?

【五十嵐】
えっ、アルコールですか?(笑)

【長瀬】
そう、相手のことを知るためにアルコールを飲んで話をする。
いわばアルコールって人とのコミュニケーションにおいて本音を引き出すためのツールですよね。

デジタルも同じです。
例えば、誰かと会う機会がある時に会う前にその人のことを事前に知ってたほうが絶対にいいじゃないですか。

知るためにFacebookやInstagramで「何が好きか」「どんなものに興味を持つか」などを調べておく。

そうすることで実際に会ったときに話が弾んだり、本音を引き出すことができた、ということを経験することは多いですよね。

でもそれは円滑に話をするためのツールであって本質じゃない。
最終的に大切なのはその後の人と人とのコミュニケーション。
デジタルだけでは人同士の関係性は作れません。

02

【五十嵐】
なるほど。デジタルは便利だけどあくまでもツールであって、それだけでは本当の答えには行きつかない、ということですね。

プロジェクト全員が同じお客様を想像できていますか?

【五十嵐】
ーー多くの人間が関わるプロジェクトでは、どんなに良い企画であっても上層部の承認をなかなか得られなかったりメンバーの意見がバラバラになったりといくつもの障壁にぶつかって思うように進まない、というケースも少なくありません。
多くの人を動かしてプロジェクトをスムーズに推し進めていくために、マーケターはどの点に注意すればよいでしょうか。

【長瀬】
プロジェクトに関わる全員が「同じ方向を向いている」ことがとても大切です。

同じ方向を向くというのは、関わるメンバー全員が同じお客様を想像し、理解できているということ。
自分たちが作っているサービスやプロダクトが、最終的にどんな形になり、どんな使われ方をするのか、このサービスを使っているお客様がどういう顔をしているのか?

どう生活の一部にしているのか?をクリアに想像できる状態にすることが何よりも重要です。

それさえできていれば実は上層部の承認も取りやすいんです。
なんのために予算が必要なのか、それがお客様にどう活かされるのか。
チーム全員が理解できているから説明もしやすいし、決裁者にも理解してもらいやすいのです。

すぐできる“小さな一歩”ですが、実は意外とやってない人が多い。
現場主義と言いますが、マーケターは現場に居ないことが多い。
自分がやっている仕事がどうお客様に使われているのかをリアルに想像することができればビジネスは上手くいくと思います。

「お客様を知る」をチームの文化に。

【五十嵐】
ーー「お客様を想像する」ということは重要なテーマだと思います。
若手マーケターはどのようにトレーニングしたら良いのでしょうか。

【長瀬】
まずは自分のプロダクトをよく理解し、(お客様の)仮説を立てる。
その仮説を立証するために調査をして、結果を全員に共有することが大切です。
お客様の何がプロダクトで実現できていて、何が実現できていないのか。

お客様の軸で考えることが大切です。

そして、これはトレーニングなどではなく、チームの文化にすることが大切です。

わたしが以前在籍していた『ユニリーバ』では、納品担当も工場長も研究開発部門も、全員が商品コンセプトを理解していました。
「この商品は、どのくらいの年収の人が、どんな価値観を持って、どんなシーンでどこに置くことを想定している物なのか」を全員でコンセンサスが取れている。
だからこそ「ちょっと違うな」と思ったら、すぐに軌道修正が効くんです。

ブランドマネージャーからプロダクトオーナーにまで視座を引き上げてくれた特別な体験

【五十嵐】
ーー書籍『マーケティング・ビッグバン: インフルエンスは「熱量」で起こす』の中で、『リプトン』のブランドマネージャーを担当されていた頃、現地の茶畑まで訪れたというエピソードを紹介されていました。
やはり、現地まで行ったことでブランドに対する理解に変化はあったのでしょうか?

03 リプトンズシート

http://shutterstock.com/
※リプトンを創業したトーマス・リプトンは、「茶園から直接ティーポットへ」というスローガンのもと、広大な茶園を買い取り、
茶樹の栽培から生産まで一貫して行うことで、上質な紅茶を多くの人が気軽に楽しめるようにした。
出典:リプトンブランドサイト

【長瀬】
もちろんです。

創業者トーマス・リプトン卿がいつもそこに座って茶園を眺めていたと言われている椅子(リプトンズ・シート)があります。
そこから同じ景色を眺めた瞬間に、「リプトン卿の想いを引き継いで、このビジネスを広げていかなくては」という気持ちになりました。

リプトン卿がやりたかったこと、すなわち「多くの人に紅茶を広め、届けたい」という理念が腑に落ちて素直に理解できたんです。
いちブランドマネージャーから、まるでプロダクトのオーナーになったような気持ちです。

ブランドの持つ「ストーリー」を語れますか?

【五十嵐】
ーーそれはまさに、究極の「自分ごと化」ですね。お話を聞いているだけで、ブランドに対する熱量が伝わってきます。

しかし実は、長瀬さんは紅茶派ではなくコーヒー派なのだと聞きました。
「熱量が高い」ことと「プロダクトが好き」ということは違うのでしょうか?
例えば、男性が女性向けの化粧品を“自分ごと化’’するのは難しい。
こういったとき、どうやって自分の熱量をあげれば良いのでしょうか。

04

【長瀬】
熱量を上げるには、「ブランドが持つストーリーを知り、語れる何かを持つ」のが良いと思います。

例えば、一時期女子高生にも流行った「ルイ・ヴィトン」。
彼女達がルイ・ヴィトンを持っている動機は「みんなが持っているから」とか「デザインが好き」という気持ちですよね。

でもそれだけでは、不本意なブランドの使われ方をしているな、と思うんですよね。
もちろん、デザインが好きだから使うでも良いのですが、本来大切なのは「ブランドのメッセージや方向性、ストーリー」を知ってもらい好きになってもらうということ。

僕は、ルイ・ヴィトンの中でもトランクやスーツケースが大好きです。
それは、ルイ・ヴィトンはタンスメーカーから始まり、大きな衣装を運ぶために丈夫な旅行用トランクを作ったというのが本来のルイ・ヴィトンであるということを知っているから。

タイタニックが沈没した時でもルイ・ヴィトンのトランクは中身が無事だったという逸話もあるほどです。
そういったブランドのストーリーを知っていると知らないではブランドに対するファン度が格段に違ってきますよね。
そのストーリーを知っている人はブランドに対して相当熱量が高いんだなとわかるじゃないですか。

でも日本の企業やマーケターはブランドのストーリーをお客様にあまり伝えない。
だからなのか日本人は、「周りが持っているから」「流行っているから」「これさえ持っていれば間違いない」といった理由でブランドを好きになる人が多いように感じます。

リプトンのブランドマネージャーだった頃、私は何百年も積み重ねてきたリプトンのブランドストーリーを誰よりも熱量をもって語ることができました。
日本のマーケターはなぜかブランドストーリーをお客様に伝えない。
「流行りの芸能人をCM起用すればOK」といった感じで、表面的なコモディティ化されたブランドを作ってしまっている。
それでは本当の意味でのファン作りは上手くいくはずはありません。

ブランドストーリーをお客様に伝えていくコンテンツこそがブランドのファンを作るためには最も重要だと思います。

どんなにデジタルシフトが進んでもリアルファーストは変わらない。

【五十嵐】
ーーコロナによって、否応なくデジタルシフトを求められる社会となってきました。
そんな世の中だからこそ、未来はどのように変わってくいくと考えられていますか?

【長瀬】
オンラインにばかり注目がいきますが、やっぱり最終的にはオンラインよりもオフラインを重視したいですね。

「現場を知る」「お客さんを知る」という話とも繋がりますが、オンラインで取れるデータには限りがある。
どこをクリックされたのか、どんな性別でどこに住んでるのか?は分かっても、そのお店(サイト)に来てくれたときの反応や熱量まで分かるものじゃない。

リアルの店舗に来てくれた人はその時点で既に熱量が高いんです。
そして、その熱量に直に触れるチャンスがあるというのはとても貴重です。
そこで得られた情報はGAFAでも取得することができない、とても貴重なものなんです。

デジタルの施策を打つことでもブランドのストーリーに興味を持たせることはできると思います。
ただどうやってもコンテンツをある程度理解してもらうというところまでしか実現できない。
いくらVR・ARが発達してリプトンズシートにバーチャルで座る体験ができたとしても実際にセイロン島の風を感じながら座るリアルな体験で得られる熱量までは到達しないと思います。

実店舗への来店を促すオンラインプロモーション活動ももちろん大事です。
でも、さらに大切なのはその先。
オフラインでのブランドストーリーの体験です。
行かないとわからないこと、というのはやはり多いでしょう。

実家の両親も電話口では「元気」だと言うものの、会ってみると違ったなんてこともありますよね。

さらに、日本人は「リアルで人に会う」ことがもともと大好きで、それ自体をイベントのように感じる傾向があります。
言語的にも、行間を読んだりしなければならない分、文章で物ごとを伝えるのがあまり得意ではないんです。
物も触らないと買わない人種。実は日本人はとても“リアル’’を大事にする人種なんです。

今、デジタルシフトの名目で実店舗を手放し、Eコマースに集中し過ぎているブランドは危険だと感じます。
また、必ずリアルが戻ってきます。

その時になって再び出店しなおそうと思っても、すぐに対応するのは難しい。
(コロナ禍で難しい事情もありますが)リアルなコミュニケーションができる場所を持ち続けるということはとても大事だと思っています。

05

同じ目線を持てる人をパートナーに選びたい

【五十嵐】
様々な業種、様々な立場で広告やマーケティングに携わってきた長瀬さんは、我々代理店などの外部パートナー(会社)とも多く
一緒にお仕事をしてきたと思います。

そんな長瀬さんから見た「理想のパートナー(会社)」を教えてください。

【長瀬】
我々と同じ目線で物事が見えているか?ということを大切にしたいですね。
同じお客様を想像してくれて、ときには「それは違うんじゃないですか」と意見を言ってくれる人。

同じビジョンとミッションを共有してパートナーというより、ファミリー、同じ社員というくらいの感覚になれる人が良い。
そういう意味だと「同じお客様を見ていて、我々のビジネスを自分ごととして考え行動してくれる人」だと心強いし、二人三脚でうまくいくと思います。

【五十嵐】
クライアントのビジネスを自分ごと化して行動し、成功した時の喜びも心の底から分かち合える、それは本当に理想の関係ですね。

本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

06

長瀬様の初の書き下ろし書籍「マーケティング・ビッグバン インフルエンスは「熱量」で起こす」の直筆サイン本を10名様にプレゼントいたします。
※プレゼントの応募は締め切りました。たくさんのご応募ありがとうございました。

本書は「熱量」をキーワードに、『デジタルシフト』『広告』『SNS戦略』
『ブランドのつくり方』『インフルエンス』『コミュニティ』について、
図を交えて分かりやすく解説。
真のマーケター思考をインストールできるマーケター必読の1冊です。

【本書概要】
■CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)&トップマーケターとして、
企業をどう導くか、実例を交え、分かりやすく解説。
■ユニリーバ、日本ロレアル、インスタグラムといった有名企業で
著者自身が進めたプロジェクトや思考法を惜しげもなく公開。
■デジタル・マーケティングの本ながら、「現場主義」
「アルゴリズムの否定」「広告を出さない戦略」など
他書籍と一線を画すコンセプト。
■アフター・コロナにも対応したマーケティング理論を提案。
■マーケティングだけでなく、著者自身のキャリア戦略についても言及。

07

● 長瀬 次英 (ながせ つぐひで)

08

1976年、京都府生まれ。マーケター、経営コンサルタント。
インスタグラム・ジャパン初代日本事業代表責任者、日本ロレアル初CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)、LDH JAPAN CDO等を歴任。
PENCIL&PAPER.COM株式会社 とVisionary Solutions株式会社 を設立しCEOに就任。
他複数企業のCEOやCSO、社外取締役、顧問業を平行して務めるパラレルワーカー。
「AdTech Tokyo」登壇スピーカーで、2017年、2018年2年連続1位受賞。
「Forbes Japan」でカリスマ経営者の一人として称された。

ライター:五十嵐 慧 (いがらし けい)
2007年に入社。入社からメーカー系のクライアント様を中心にリスティング・SNS・動画:リアルメディアなど、あらゆる手法でこれまで数多くのデジタルプロモーションを支援。近年は採用・育成・コミュニケーション支援など「働く」のフレームワーク構築にも従事している。
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