LiveRamp Japan日本営業責任者 鳥井様インタビュー プライバシー規制を見据えたデジタルマーケティング
(右)LiveRamp Japan株式会社 日本営業責任者 鳥井 武志 氏
(左)GMO NIKKO 広告事業本部 マーケティングソリューション2部 エグゼクティブマネージャー 五十嵐 慧
プライバシー規制の新たな動きの中でデジタルマーケティングはどう変わるのか?
昨今、データ収集・活用の規制強化や、Safari、Chromeなど主要ブラウザの仕様変更により、Cookieに依存しないマーケティング体制の確立が求められている。そのような状況下で我々マーケッターはどのように対応していけばよいのか?
今回、ファーストパーティーデータのデジタル活用ソリューションを提供するLiveRanp Japan株式会社の日本営業責任者である鳥井武志氏に話をうかがった。
■LiveRampについて
五十嵐::まず初めにLiveRamp社について教えていただけますか?
鳥井::LiveRampが提供するテクノロジーはDMPやDSPとよく誤解されることが多いのですが、我々はデータ接続プラットフォームを提供している会社になります。
マーケッターと話をしていると、「改正個人情報保護法が出るらしい」、「クッキーが扱えなくなるらしい」と、そこまではみなさんご存じなのですが、ではそのことで何が起きるのか?何を対策したら良いのか?というところまではわからない。
そこで「何をする必要があるのか」をご説明した上でLiveRampソリューションの価値のことをご理解いただくことが多いです。
改めて簡単に我々のプラットフォームを簡単に説明すると、LiveRampはファーストパーティデータの中に含まれる、個人を特定できる情報(PII = Personally Identifiable Information)をプライバシー配慮した、安全な形で固有のIDに変換します。このIDを「RampID」と言います。このRampIDにお手元にある他の(ファーストパーティ)データや、例えばデバイスIDやサードパーティーのデータなどいろいろなデータをRampIDによってつなげて活用することができる、というソリューションになります。
五十嵐::いわゆるファーストパーティーデータをLiveRampが保持しているわけではなく、メディア、配信ツール、広告主などが持つファーストパーティーデータを繋ぎこむシステムを持ってる、そういう会社だよっていう位置づけが一番伝わりやすいですかね。
鳥井::その通りです。
五十嵐::そう考えると、広告業界のプレイヤーマップの中でLiveRampさんの立ち位置って結構新しい、というか独自ですよね。
鳥井::そうですね。カオスマップの中でも我々のポジションって表現しようがないんです。というのも、われわれのソリューション自体が、カオスマップのいろんなポジションのプレイヤーに使っていただいているものなので、ここです!とはなかなか定義できないんです。
クッキーレスの影響について
五十嵐::企業のマーケッターは今まさにクッキーレスの影響について直面しているとおもうのですが、彼らからはどのような相談を受けることが多いですか?
鳥井::新規のユーザー獲得や既存のお客様のLTVアップといったコミュニケーションにおいて、これまでできていたアプローチができなくなってしまった。なんとかならないか?という切り口の相談がやはり多いですね。
五十嵐::そうなのですね。われわれもこれまで取れていたコミュニケーションがあるタイミングで一気にできなくなったということがありました。
鳥井::ただ、マーケッターは「今使える技術ってこれとこれだよね、じゃあこういう方法でアプローチをしていこうか」という、今あるソリューションの有効活用という意味での試行錯誤は昔から普通にやっていて、一方でクッキーレスが進む今の状況でも同じようにマーケッター同士で新しい技術に対する知見を出し合い試行錯誤して今までにないアプローチ方法を開発していけば、より良いと思うんですよね。
五十嵐::2022年4月に施行される個人情報保護法改正の話が近い未来での一番のトピックだと思っているのですが、鳥井さんはどのようにお考えになっていますか?
鳥井::今の内にできるだけ情報収集をしなければならないと考えています。総務省からガイドラインが出てきたのが本当に最近で、それまでは企業としてどう対応したらいいのか誰もわからない状態でした。
そんな中、ようやくガイドラインが出されて、今は関係する様々な企業で対応に追われている状況だと思います。施行間近になってからバタバタと用意しても当然間に合わないわけで、今の内に何が必要なのか整理し早め早めの対策が必要だと考えています。
五十嵐:: 4月の法改正によって広告活動は間違いなく大きく変わると思いますが、それ以外で変わること、また変えていくべきことことってありますか?
鳥井::ユーザーに対する説明責任をもっと明確にする必要がでてくると思います。今までいろんな企業様のプライバシーポリシーを見てきましたが、「ユーザーからお預かりした個人情報を加工してマーケティングに活用することがあります。また安全に処理した上で他社に開示することもあります」という主旨の記載がよくありますよね。これってかなりふわっとしていると思いませんか?改正後は、具体的な利用用途やデータの取得方法、誰に共有する可能性があるのか、などをはっきり書かなくてはいけなくなるようにガイドラインからは読み取ることもできます。
海外の取り組み事例
五十嵐::アメリカやヨーロッパなどの海外では、様々なデータをつなぎこんで供給し合うという文化が日本よりも進んでいるのですか?
鳥井::そう思います。海外ではデータを共有し合う文化がすごく昔から根付いているので、そういったテクノロジーも発達していました。
フランスにある、大手小売のカルフール社の事例なのですが、ITPやGDPRの規制が発生する前からLiveRampをご利用いただいております。カルフールには、社内に18個のバラバラなデータセットがあり、それらの有効な活用を考えていたところ、LiveRampならそれらを全て接続して活用できる、ということでお取引が始まりました。
五十嵐::社内のデータ、いわゆるファーストパーティーデータを整理して活用するということですね。
鳥井:: そうです。18個の社内データセットをまず整理して接続するところから始まりました。その後、そのデータをよりリッチにするためにセカンドパーティーデータとの連携をどうしようか?という話になり、それもLiveRampで実現しましょう、と。今では、それがさらに発展してメーカーとのデータ連携も始まっています。
このような、小売とメーカーのデータ連携は、アメリカ、ヨーロッパでは結構進んでいます。日本でも2019年ぐらいからじわじわ始まってはいるのですが、デバイス広告IDに依存したり、自社アプリとしか連携できていないなど、まだこのあたりは発展途上の印象がありますね。
ファーストパーティーデータ活用の重要性
鳥井::いわゆるGAFAプラスYのように大きなプラットフォーマーに依存しなければならないデジタルアクティビティってどうしてもありますよね。彼らがコロッとレギュレーションを変えるたびにあたふたするという。
五十嵐::本当おっしゃる通りです。
鳥井::外部の動きに流されないようにするためにはファーストパーティーデータをしっかりと保持し活用することが重要なのだと思います。
五十嵐::それを実現する上での1つのソリューションとしてLiveRampがあると思うのですが、クライアントが導入した場合、どの程度プロモーションの精度を改善できるのでしょうか?
鳥井::我々はピープル・ベースド・マーケティングと呼んでいるのですが、メールアドレスなどユーザーを特定する情報に基づいたRampIDを元にデータが構成されているので精度は100%です。しかも、そこにはアドフラウドも存在しないので、対象のユーザがログインしている際に広告配信できますので、必ずそのユーザにターゲットができます。
ただ、ここで1つ課題になってくるのが、メディア側でどのようにユーザーに許諾をとってログインしてもらえるかという点です。ログインしてもらわないとIDが有効にならないので。
そのため新規のお客様に対してのアプローチはログインなしでもクッキーレスでターゲティング出来るようなコンテクスチュアルターゲティングが有効になるのかなと思います。
そういった意味ではLiveRampはどちらかと言うと既存のお客様に対するアプローチの方が得意分野ではあります。
ターゲティング精度とユーザビリティのバランスについて
五十嵐::広告のターゲティングの精度を上げたいと常々思いながらも、ターゲティング精度が高い広告の代表格であるリターゲティング広告などはユーザビリティをないがしろにしてしまっているとも感じています。利便性と効率のバランスってすごく難しいですよね。鳥井さんはその点どうお考えになっていますか?
鳥井::そうですね。執拗に追いかけられたり、何で自分の行動や趣味嗜好を知っているの?という気持ち悪さがありますよね。ただ広告もメディアコンテンツの大事な要素だと思うので、広告を見て「そうだそうだ、これ買い忘れていた、ありがとう」って思える心地よいタイミングで心地よいコンテンツが出たというような体験が増えれば、邪魔にならないと思います。
そういう世界にするためにピープルベースドターゲティングを実現してユーザー、メディア、広告主も含めてピュアなマーケットになっていくといいなと思っています。
五十嵐::ここ一、二年、ブランドセーフティの話が結構話題になりました。例えばギャンブルのサイトを見ている時に自分の好きなアパレルブランドの広告が出てくることがありますよね。でも、そういうところに出た広告が意外と効果が高かったり・・・。
鳥井::そうなんですよね。私もいろんな広告ビジネスを経験してきましたけど、CVRが高いページを見ていくとフランクなページが意外と上位にあがっていたりします。
そこにはユーザーがリラックスしている時間に広告を見て「あ、これいいかも」と物を買うというようなストーリーがあると思うんです。仕事モードの時に同じ広告を見ても「ふーん」みたいな感じでスルーしたり。そこのバランスが大事かなと思っています。
我々のアプローチではメディアにユーザーさんがログインしている時にメッセージを出すので、どういうタイミングでどの広告を出すのかが鍵になります。そのアルゴリズムに関しては配信プラットフォーマーさんにお任せする部分ではあるのですが、広告の先には生身の人間がいる、と認識した上でアプローチすることが必要だと思います。
理想はトライアンドエラーをする文化
五十嵐::では最後に、理想論でもかまわないのですが「業界がこうなったらいいな」「こういう考え方を持つマーケッターが増えればいいな」と思うところはありますか?
鳥井::トライアンドエラーをする文化が日本に広がればいいなって気持ちは常にあります。新しい技術が出た時って、試してみて失敗したらどうしようと考えてしまって、最初の一歩を踏み出すのが怖いじゃないですか。
ただ、今よりいい結果を得るためには最初の一歩を踏み込まないといけない。そこに対していきなり多額の投資をしなしなさいってわけではなくて、少しでも構わないのでまずはちょっとかじってみる。それでもしダメだったら、その後に別の方法を考えてみればいいと思うんです。
まずは失敗を恐れず勇気を出して踏み出していく、そんな考え方が日本に広がればいいなと思いますし、その結果得られる知見をみんなで共有し合う文化があればいいなって思います。
五十嵐::今回はありがとうございました!
鳥井 武志(とりい たけし)
LiveRamp Japan 日本営業責任者
2002年からインターネットビジネスに従事し、検索連動型広告最大手のオーバーチュアにて、ビジネスディベロップメント部門において主要パブリッシャーとのリスティング広告事業の拡大に寄与。Yahoo! JAPANによる買収後には、ディスプレイアドネットワーク事業ならびにアドエクスチェンジ事業も担当。その後、AudienceScience Japanを経た後、デバイス推定技術「AdTruth」の日本とアジア全体における事業責任者や、韓国最大のDSP/DMP企業Wider Planet Inc.の日本法人代表を経て、2019年よりLiveRamp Japanに日本営業責任者として参画。
- ライター:五十嵐 慧 (いがらし けい)
- 2007年に入社。入社からメーカー系のクライアント様を中心にリスティング・SNS・動画:リアルメディアなど、あらゆる手法でこれまで数多くのデジタルプロモーションを支援。近年は採用・育成・コミュニケーション支援など「働く」のフレームワーク構築にも従事している。