Priv Tech社代表取締役中道様インタビュー 2022年4月施行「個人情報保護法改正」に向け今やるべきこととは?
(右)Priv Tech株式会社 代表取締役 中道 大輔 氏
(左)GMO NIKKO 広告事業本部 マーケティングソリューション2部 エグゼクティブマネージャー五十嵐 慧
Priv Tech社設立の経緯
五十嵐::まず始めにPriv Tech社設立の経緯について教えて下さい。
中道::ソフトバンクで働いていた頃にベクトルから「データビジネスをやりたいからコンサルとして入ってくれないか」と頼まれたことがきっかけでした。当時、ソフトバンクの子会社は連結を合わせて四十何社あって、様々なデータを保有していたので、どのようなデータをそれぞれ保有しているか、各子会社にヒアリングしたのですが・・・、結果、マネタイズできるデータはありませんでした。
五十嵐::四十何社もあったのにですか?
中道::そうですね。それでもコンサルとして、「ありませんでした」だけではアウトプットとしてプロフェッショナルではないため、代替案の一つとして、「データを持ってなくてもデータ領域でビジネスはできる」というご提案をしました。その提案の中の一つで今後はデータ×プライバシーの時代になり、データを持ってないことが強みになるので、そういった領域で新規事業をやられたらどうですか」といったような提案をしたのが最初です。
そしていよいよプロダクト化と、会社化を考えようという時に、社長をやれる者がいないということで、私が引き受けることになりました。
五十嵐::来年4月にプライバシー規制の動きがあると思うんですけども、特にマーケッターさんが抱えている問題って、どのようなものがあるのでしょうか?
中道::何が改正されるか明確でないことですね。
今回の法改正の中で「Cookieの同意を取らないといけないの?」というのが一つのポイントとしてありますが、日本の法律はCookieに対して実はとやかく言っているわけではないのです。
まず、2018年にEUでGDPRというこのプライバシーに関する先駆けの法律が施行されました。GDPRによってCookieに振られているIDの識別子が個人データに該当するようになりました。分かりやすく言うと、Google アナリティクスのデータの中にはGoogle側で認識できるIDが保存されているんですけど、それはもう個人情報だから取得する時点で同意を取りなさいということになります。
日本では個人情報といえば氏名や住所など、個人を特定できるデータということになっており、認識、定義が曖昧になっていますが、海外はCookieが個人情報として扱われています。なので、Webサイトへ行くと、Cookieを活用しているサイトだとバナーが表示され、「このサイトはCookieという仕組みを使ってお客さまの情報を収集しています」と説明したうえで、同意を取得しています。ユーザーの同意が取れて、ようやくGoogle アナリティクスのCookieを使えるようになる。そういうのが当たり前になっていますが、日本の法律においてCookieは個人情報ではないのです。
まず個人関連情報が何を指しているか?の例をいくつかあげてみましょう。DMPでCookieを介して保有しているユーザーの性別や興味関心などのデータ、これは個人関連情報に該当します。
次に、広告経由でコンバージョンしたユーザーがYahoo!の広告から来たという情報、これも個人関連情報にあたります。
五十嵐::いわゆるリファラ―ですね。
中道::そうです。リファラ―を見ると、Yahoo!がユーザーに振ったIDからYahoo!から来たことがわかります。これが個人関連情報に該当します。
Cookie、リファラ―、API、IPアドレスなど、個人関連情報を紐付ける方法はいくつかありますが、日本ではそれ自体を規制するというわけではなく、それを個人が特定される情報と紐付けることが駄目と言っているのですね。このあたりの不理解がCookieに対して同意を取らないといけないという誤った認識を生んでいるのだと思います。
五十嵐::なるほど。そのややこしさが混乱につながっているのですね。
中道::もうひとつ大きな課題があって、それは法の専門家である弁護士の方がCookieをなかなか理解できないということです。「Cookieを取得してGAでクリックIDと紐付けているんですよ」みたいな会話を弁護士さんは理解できないので、良し悪しを判断できる人が世の中にいないんですよ。
法的な要素よりもシステム的な要素の理解が圧倒的に必要なので、僕らみたいにシステムを知っている側で法律を勉強すれば理解は深まりますが、弁護士など法務の方々が法律の知識をベースにWebの知識を取りにいこうとすると、膨大な勉強をする必要があります。そのハードルはとても高いので、結果、分かる人がほとんどいない状況になっています。
五十嵐::実際に今回の法規制を破った広告主にはどのようなデメリットがありますか?ニュース記事などで社名が露出することによるブランド毀損(きそん)はかなりありそうですが・・・。
中道::ありますね。個人情報まわりって、Webを見れば、どういったデータで運用しているのかがガラス張り状態なので、僕らみたいにある程度知識を持った人が見ると一目瞭然です。日経新聞とかで「主要100社調査しました」みたいな記事がよく流れていますが、そういう風に晒されてしまうと、ブランド毀損として大打撃なのはもちろん、株価にまで影響があったりしますよね。
五十嵐::今まで当たり前のようにやっていたことが、今回の改正によってできなくなることってありますか?
中道::例えばCDP(カスタマーデータプラットフォーム)の中で個人情報に付随するようなIDとともに個人関連情報を紐付けて分析するケースも多いと思いますが、それが同意なしではできなくなったり、あとはマーケティングオートメーションでも同意が取れたデータ以外は取得できなくなるので、デジタルマーケティングをしっかり取り組んでいる企業ほど普段やっている施策の実施継続が難しくなってきます。
五十嵐::その中で企業がまずやらなければならない事って何かありますか?
中道::まずやらないといけないのが、来年の4月の改正法に向けて自社がどういった状況なのかを正しく把握することだと思っています。法務の担当が個人情報保護法のガイドラインを見ただけだと、間違った解釈をする可能性が高いと思います。そのため、僕らのような専門家や、デジタルの個人情報の保護に詳しい弁護士事務所に相談すべきだと思います。
これまでクライアント企業の中で正しく理解している人に会ったことがありません。それどころか僕らの同業社でさえ、誤った情報をクライアントに伝えていることもあります。
法改正によって変化を求められるデジタルマーケティング
五十嵐::法改正によって取得できるデータが少なくなくなる中で、今後デジタルマーケティングではどのような取り組みが必要でしょうか?
中道::法律によるCookie規制とか同意管理によって使えるデータはどんどん減っていくので、特にデータを活用する場面の多いロウワーファネルの施策を見直す必要があります。
顕在化しているターゲットへの広告配信やCRM、マーケティングオートメーションなどの施策は、従来通りに成果を出すのが難しくなってくるので、ポストCookieと呼ばれるソリューションを検討して、ポストCookieID経由、共通ID基盤などでデータを補完するなどの取り組みがあげられると思います。
あとはアッパーファネル向けのブランディング施策や、SEOを強化してオウンドメディアのドメインの力を強めるなど、マーケティングの本来あるべき領域を強化することも重要ですね。
あとはクリエイティブがやはり重要だと思います。良いサービスを提供していてクリエイティブが強いところが選ばれて売れていくという普通に考えれば当たり前のことにより回帰していくんじゃないかなと思います。
五十嵐::中道さんの口からクリエイティブという言葉が出てくるとは思いませんでした。データをよく見ている中道さんだからこそクリエイティブって重要だなという感覚があるのでしょうか?
中道::そうですね。データを活用した広告配信はかなりやってきましたが、突き詰めるほどターゲティングは絞られるし、結果、広告の露出も減る。果たしてこれが本当に正しいのか?という疑問が残るわけです。
五十嵐::データを駆使して広告配信しても、極端な話CTRが1%改善しても実数ベースではどのくらい影響が出たのか?と考えると、やっぱりクリエイティブ、伝える表現力のほうが影響力が大きかったなってことですね。
中道::そう思います。もちろんターゲティングの最適化で効果が良くなることも当然あると思いますが、やっぱり商品やクリエイティブに魅力があることが大前提だと思います。
Priv Tech社の強み=確かな情報へのこだわりと提案力
五十嵐::Priv Tech社としては来年4月がひとつの転換期になってくるかと思いますが、御社の強みを聞かせてください。
中道::僕も含め、メンバーが法律を正しく理解した上で提案、コンサルティングができることですね。基本的に全ての営業先に僕が全て同行しており、間違った情報は伝えないようにしています。コンサルティングに関しても、元アクセンチュアなどのコンサルファーム出身メンバーをアサインしています。
プロダクトについては、Cookieビジネスの良い部分も悪い部分も全部知っているインティメート・マージャーのメンバーと対応しているので、広告への悪影響に配慮し、かつマーケティングをしっかり意識したうえでCMPの提案にもっていけるというのが僕らの強みですね。
例えば、Cookie利用の同意管理だけだと、遵守したところでビジネスが衰退したら意味がない。そして、全体のうちの何割かしか同意が取れないと、同意を取ることができなかった残りの多くのデータが使えなくなります。そこに目をつぶるベンダーではいたくないと思っています。
例えばインティメート・マージャーのポストCookieのIDソリューションと連携するなど、ですね。
なので、これからのプライバシー×マーケティングを全体的に提案できるところが僕らの強み、と言っても良いと思います。
五十嵐::Cookie取得同意のポップアップ提示自体は確かに他のツールベンダーでもできると思うんですけど、それ以外のコンサルテーションがやっぱり差別化のポイントなんですね。
中道::僕らは基本的にアライアンス戦略、パートナー戦略を強めていて、今、新規受注の半分以上がパートナー案件です。御社のような広告代理店パートナーと一緒にCMPを提案することで、CMPを入れて終わりにならないように、そのあとの提案も一緒に提案していくという座組になってます。
五十嵐::では、これからのサービス展開において、どのようなところにチャンスがあるとお考えですか?
中道::プライバシー対応を僕らが広めることによって、ビジネスやマーケティングの衰退につなげるわけにはいかないと思っています。プライバシーを守ると確かにマーケティングの効果は悪化しますが、悪化した部分は代替案をしっかり提案していきたいです。
また法律が各国それぞれ違っているので、まずはその細かい違いにアジア圏のベンダーとして僕らが機能を合わせにいくことで、東南アジア、APACあたりの市場をリードしていきたいと思っています。
アメリカの大きなベンダーが東南アジアとかの国々に対してどこまで法律に合わせにいくかっていうと、現状動きはないですから。
ただ、どちらも1社で推進し続けるのは難しいので、貴社をはじめとするいろいろな企業とアライアンスを組むことで進めていきたいです。
五十嵐::是非そこは協力しながらやらせてください。
本日はインタビューありがとうございました。
Priv Tech株式会社
代表取締役 中道 大輔
ソフトバンクや、ヤフーを経て、現職。キャリアを通じて、データビジネス関連事業のビジネス・ディベロップメントに従事。現在は、ベクトルの子会社Priv Techにて、プライバシー・ファーストなデジタル社会を目指し、事業を展開。
- ライター:五十嵐 慧 (いがらし けい)
- 2007年に入社。入社からメーカー系のクライアント様を中心にリスティング・SNS・動画:リアルメディアなど、あらゆる手法でこれまで数多くのデジタルプロモーションを支援。近年は採用・育成・コミュニケーション支援など「働く」のフレームワーク構築にも従事している。