マーケターとして成長するために必要なこと パイオニア株式会社 CCO兼CMO 石戸亮氏インタビュー
(右)パイオニア株式会社 モビリティサービスカンパニー エグゼクティブ・ディレクター CCO(最高顧客責任者)兼 CMO 石戸 亮 様
(左)GMO NIKKO 広告事業本部 マーケティングソリューション エグゼクティブマネージャー五十嵐 慧
IT企業在籍時代に感じた違和感
五十嵐:まず初めに、個人的にすごく興味を持ったことを聞かせてください。これまで有名IT企業などマーケティングテクノロジーの世界でご活躍されていたかと思うのですが、なぜパイオニアに入ろうと思われたのでしょうか?
石戸:僕が20年近く在籍していたITとかマーケティングテクノロジーの世界ではないところで働こうという感覚になったきっかけの1つは、採用数や給与水準などでGoogleやSalesforce、Amazonといったテックジャイアントやベンチャーが盛り上がっていた時に感じた違和感です。
Salesforce時代、導入いただいている事業会社側の人で、この人がいるからBIツールに関わるプロジェクトが推進していると思っていたらBIやデータ系の会社に転職しますとか、この人はこの会社で一番デジマに詳しいなと思ったらGAFAに行きますとか、なんて志が高い方なんだろうと思っていたらベンチャーに行きますとか。もちろんそれは応援するのですがすごい違和感がありました。
事業会社側にもITが分かる人がいたほうが話は早いし提案もしやすい。実装も浸透もしやすく成功するはずなのです。
それなのに事業会社側の困りごとがみんなほぼ共通で、データとかITを使いこなせていない。デジタル人材がいない。みんな同じことを言うんですね。
五十嵐:市場のバランスが変だなと感じたのですね。
石戸:ものすごく感じていました。Google時代もSalesforce時代にもどんどん人が増えていて、ベンチャーも年々増加し、それらの会社が提供するサービスを導入する事業会社も増えているのに、それを使いこなせる人材が事業会社側では増えない。結果、使われないツールがどんどん世の中に増えていくという・・・。
五十嵐:それでいわゆるベンチャーとかITじゃない領域に目を向けられたのですね。とはいっても数多くの企業がある中でなぜパイオニアという企業を選択したのですか?
石戸:ある先輩からファンドが入った会社がいいんじゃない?とアドバイスをいただいたんです。ファンドが入っているということは会社が基本的に現状厳しくV字回復するしかない状態だからと。
そのタイミングで入ると、僕の貢献幅とか貢献度も分かりやすいし、やりがいもあるなと。あとファンドが入ると期限が決まっていてそれまでに結果を出さないといけないんです。
もちろん上場企業も結果を出さなきゃいけないのは同じなのですが、昨年対比100数%ぐらいで伸びている日本企業は結構多くて、それはそれで凄いんですが、すごく悪いわけでも良いわけでもないから危機感があまりない企業を何社も見てきました
そういった意味で何社かファンドが入っている会社と会って、その中でパイオニアを選んだのは、当時一番結果を出すのがヘビーそうだったからです。
五十嵐:ストイックですね(笑)
改革はトップダウンではなく社員主役で
五十嵐:2020年に実際に入られて組織を作っていく、再編していくというミッションを進めていく中でギャップってありましたか?
石戸:ギャップは全くなかったんです。これまでIT企業に在籍していた時、事業会社とたくさん働いてきましたので、想像できました。そして、みんな、すごく話をよく聞いてくれるし、逆に聞き過ぎてしまうくらいなので。むしろ、みんな良い人過ぎて思ったより社内政治がないなというのがギャップかもしれないです。
五十嵐:いい意味でのギャップですね。石戸さんよりもはるかに社歴の長い部下の方がたくさんいらっしゃるイメージがあるのですが、最初から皆さんにすんなり受け入れてもらえたのですね。
石戸:そうですね。しかもあまりトップダウンでやったということは実はそれほどないのです。現状を把握していくと変えたほうが良いところとかイメージがついてくるのですが、それをいきなり押しつけないように結構丁寧にマッサージするというか。僕が決めるよりもその人たちが決めている感とか納得感を持たせるように僕はしています。そして、何より現場理解、ハンズオンは意識しました。ここ数年でこれほどに現場に入った経営メンバーは初めてなのではないかと言われるくらい意識して行動していますし、実際に社員からもそういわれることもあります。
五十嵐:なるほど。じゃあ入社されてからまずはそのような丁寧な合意形成を行ってきたのですね。
石戸:はい、それを各所で。最初にまず入社3カ月で100人位の方たちと1on1をしたんです。営業やマーケだけではなく、工場や財務経理など様々な部署のメンバーの方たち、定年後に再雇用で働いているような長くいらっしゃる方から若手のメンバーまで幅広く、ですね。
そしてご一緒した方に「次に誰と1on1したらいいですか?」と、わらしべ長者のようにその輪をつなげていくんです。それはいまだに続けていますね。
外から来た何かよく分からないITばかりやってきたやつがガチャガチャするのは本望ではないですし。本来はやっぱりこれまでパイオニアを築いてきた社員の人が、長くいる人が主役になったほうが良いと思うんです。
五十嵐:その中で「ここはやっぱり変えていかないと」というのはどんなところだったのですか?
石戸:僕の抽象的なイメージなのですが、パイオニアの優秀な人たちって、かつてのバリー・ボンズとかマグワイアみたいなスーパーメジャーリーガーみたいな人たちで、1990年から2000年ぐらいに世界でめちゃくちゃホームランを打っていた人たちがいっぱいいるんです。世界を代表するカーナビやスピーカーを作った開発者とか、外資企業の日本支社にもいないようなグローバル人材とか。
ただ今は野球だけで勝てるわけじゃなくなっていて、ラグビーとかトライアスロンもやっていかなければいけないんです。
例えば、カーナビというハードウェアを作って売って故障したらサポートするというビジネスモデルだけではなくて、カーナビの中にあるソフトウェアをどうやってオープン化するかとか。D2Cとか直接法人に対して売るとなると、契約をしてからがスタートだったり、サブスクリプションビジネスもあったりします。そのようにビジネスモデル自体が変わってきているのでそこに対応しなければならなくなっていますし、これまでの経営資源や強みをリメイクして、新しい価値を提供し、収益性を上げる。そこは変えていかなければと思っています。
マーケターとして成長していくために必要なこと
五十嵐:「マーケターとして今後重要になるスキル」や「マーケターとして成長していくために必要なこと」について、読者の若手マーケターにアドバイスをいただけますか。
石戸:まず私自身がマーケターという意識をしたこともなく、事業で成果を出すから逆算して最も貢献できることをやるという経営視点で常に動いています。これからの時代何が大事なのか?と考えると、これまではソフトウェアそのものを作るのが価値という時代でしたが、ソフトウェアが当たり前になった今はソフトウェアの上でアプリケーションを操作するスキルが大事になると思うんです。具体的には、SaaSとかNoCodeのソリューションなどを使うスキルです。
もちろん、マーケティングで顧客を理解や共感するとか、そういう普遍的なスキルはあると思うのですが、普遍的じゃない、時代に沿ったスキルという意味ではそれですね。
あと、自分自身の成長のセルフチェックを定期的にやるということですね。
マーケターとして持つべき視点や行動。例えば顧客観点でいうと、今月新しいサービス何個使った?とか、お客さんと今月何回会った?といったこと。
社内だけとか自分の知っている仲間だけで仕事をしようとするとやっぱり限界があるので、外部にメンターがいるのか?とか、外部の優秀なマーケターや事業開発の人と今月何人と話したか?とか。
※石戸氏の成長セルフチェックシートを公開!
五十嵐:これいいですね!このリスト早速使いたいです。もうそのまま。
石戸:自分なりのセルフチェックを作って、その中で自分は今顧客観点が弱いなとか、ツールが詳しくないなとか、そもそもマーケティングのメソッドが分からないなとか、そういうのがあったら、今月はそれを強化しようという形で、自分をできる限り俯瞰的に見てセルフチェックをして、会社とか世の中とかお客さんから求められることをやり続けていくと、包括的に強くなっていけると思います。
成長したらまた違うステージのセルフチェックに更新していくのも良いです。新任マネージャーであればもっと財務書を読まなきゃいけないとか、50人以上のマネージメントの仕方とか、多分フェーズによって変わると思うんです。
だから、常に自分がセルフチェック出来るようなチェックリストを持っていると道に迷わなかったりします。例えば上司との面談や尊敬する社外の人でも良いですが、「自分は今、成長するためにこの20個の項目が必要で、中でもこの3個が重要だ」と思ったらそれらについてアドバイスをもらったり、上司や尊敬する人から「そうだね」とか、「君のフェーズ的にこうじゃないかな」とかフィードバックをもらったりすると、組織としてもアジャストしやすいですし自分自身のキャリアや未来も切り開いていけると思います。
五十嵐:ありがとうございます。最後のセルフチェックで自分を俯瞰的に見る習慣、これは早速やってみようと思います。
今回はインタビューありがとうございました!
- ライター:五十嵐 慧 (いがらし けい)
- 2007年に入社。入社からメーカー系のクライアント様を中心にリスティング・SNS・動画:リアルメディアなど、あらゆる手法でこれまで数多くのデジタルプロモーションを支援。近年は採用・育成・コミュニケーション支援など「働く」のフレームワーク構築にも従事している。