Cookieレス対策に留まらない、コンテキストターゲティングの本質とは
(左)GMO NIKKO 広告事業本部 マーケティングソリューション2部 エグゼクティブマネージャー 五十嵐 慧氏
(右)IAS カントリーマネージャー 山口 武氏
コンテキストターゲティングとは、Webページの記事の内容を人工知能(AI)で解析することで、サイトに掲載されているコンテンツの文脈に相応しい広告を配信する手法です。これにより、サイトを閲覧しているユーザーが現在興味や関心を持っている広告を配信することができます。
この技術はCookieレス対策において注目されていますが、それだけに留まらないコンテキストターゲティングの価値を、コンテキスト ターゲティング ソリューションを提供するIntegral Ad Science Japan 株式会社(以下、IAS)の山口氏にお聞きしました。
■欧米で活用が広がる「コンテキストターゲティング」
五十嵐:個人情報保護の観点での法改正やITPの問題など、所謂「Cookieレス時代」を迎えつつありますが、その中でデジタルマーケティングはどのように変化しつつあるのでしょうか。
山口:Google社がサードパーティーCookie廃止を宣言してから未だに延期が繰り返されていますが、欧米ではアドベリフィケーションが進んでいることもあり、コンテキストターゲティングの活用が広がっています。
これまでCookieの情報を元に活用されていたオーディエンスターゲティングでは「自動車に興味がある人々」「旅行に興味がある人々」のように広く括っていました。しかし実際は、欲しい自動車や次の旅行の行き先を調べているといった「ポジティブな文脈」にいる方も、自動車や旅行における事故に関する情報を読んでいる「ネガティブな文脈」にいる方も存在していますので、ターゲティングと配信する広告がマッチしていない可能性がありました。
しかしコンテキストターゲティングでは、掲載されるWebページの文脈に合った広告が配信されます。そのためコンテキストターゲティングは「サードパーティーCookie廃止後のオーディエンスターゲティングの代替」という見方がある一方、オーディエンスターゲティングよりもパフォーマンスが優れているという実績が既にあります。
五十嵐:コンテキストターゲティングは、Cookieレス対策である以前に、広告効果改善に繋がる施策として既に有効であることが証明されているのですね。
山口:Cookieを使ったオーディエンスターゲティングは、この多様性が謳われる時代において最適な手法ではないと考えています。例えば、おむつの広告を配信する際、20代、30代の女性だけに届いていたらいいのでしょうか。子育てに積極的なパパもいますよね。また、お子様の有無、ライフスタイルもそれぞれです。
趣味嗜好や、どういったものを調べているか、どういった記事を読んでいるのか。パソコンの前に座っている人の性別や年齢は関係なく、そのタイミングでその方が最も関心があることに関する広告を出すことが成果に直結します。
■コンテキストターゲティングはブランドリスク回避のその先へ
山口:さらに、Webページの文脈に合った広告が配信されることで広告配信によるブランドリスクも減少している傾向にあります。ブランドリスク回避に対する日本と欧米の意識の差について、数年前、国内の講演でご一緒させていただいた方々の発言が印象的でした。ブランドリスク回避を飲食店選びに例えられていて、欧米だと飲食店を選ぶ基準が「美味しい食べ物を出すお店かどうか」、さらに言えば「何が美味しいお店なのか」であるのに対し、日本は「食中毒が出るお店か、出ないお店か」であると。
欧米では、コンテキストターゲティングが浸透していることで食中毒が出るようなお店は除外済み、つまり広告が安全なサイトに出ているのは大前提で、さらにサイトの文脈に合った広告が配信されているという世界なのに、日本は未だ「食中毒が出るお店かもしれない」つまり「ブランドリスクがあるサイトに広告が配信されてしまうかもしれない」という段階で足踏みしている、世界に取り残されている感覚があります。
五十嵐:確かに我々もコンテキストターゲティングはブランドスク回避のために活用すべき、という認識が強かったように思います。しかし実際は、サイトの文脈に合った広告が配信されることで、そのサイトに訪れている確度の高いユーザーの目に留まる仕組みが、ブランドリスク回避はもちろん全体のパフォーマンスを向上させているのですね。
■日本企業へのコンテキストターゲティング浸透
五十嵐:これまでコンテキストターゲティングに否定的だった企業様が、そうではなくなってきた、という感覚はありますか?
山口:先程お伝えしたように、コンテキストターゲティングはブランドリスク回避になっているのは大前提ではありますが、加えて広告のパフォーマンス向上のための有効な施策の1つでもあります。
アドベリフィケーションへの投資は、不適切な配信先を除外するために行われるため、広告費に対する追加の「出費」という印象を持たれることがあります。しかし、コンテキストターゲティングに対しては、文脈がマッチした配信面に広告を表示するためのポジティブな「投資」であるとして、コンテキストターゲティング本来の価値をご理解いただくことで、興味を持ってくださるお客様が増えてきています。
五十嵐:どのような業種で増えているのですか?
山口:特にブランディングを重要視されているラグジュアリー系の企業様が多いですね。
コンバージョンなどパフォーマンスを重要視されているお客様の中では、比較的獲得単価が高いクレジットカード系の企業様は前々から取り組まれています。多少CPAが上がったとしてもライフタイムバリューが高い顧客の獲得が増えていていればよい、という考えだからです。
五十嵐:インターネット広告のメジャーな評価指標であるCPAが安価かどうかではなく、最終的なライフタイムバリューで比較してご判断いただく方が利益への貢献は大きいですね。
山口:数年前に、オンラインコンバージョンを指標としているお客様が、アドベリフィケーションを使用してアドフラウドをブロックし始めた結果、すぐにCPCとCTRが悪化したことが問題視されたことがありました。しかし、代理店の方が、コンバージョンを重視しようと舵を取ってくださいました。実際にコンバージョンは増加しており、アドフラウドをブロックしたことで、不正クリックもなくなっていました。クリック関連の指標は悪化したものの、流入の質自体は改善していたのです。結果としてご利用を継続いただけることになりました。
しかし、未だクリック関連の指標の悪化によって継続を踏みとどまってしまう企業様もいらっしゃいます。そういった企業様に一歩踏み出していただくには、弊社だけでなく、伴走されている代理店の皆様と数字を見ながら進路を明確にすることが非常に重要だと考えています。あくまでも、我々は計測ツールを提供する立場なので、ツールを利用して「どの数字を改善していくか」というのは、実際に広告を運用されている代理店の方にご理解いただかないと、我々だけではどうにもならないのです。そのため、代理店の方々と弊社、二人三脚、ワンチームで取り組める体制づくりを常に心がけております。
■AIがライトパーソン、ライトプレース、ライトモーメントを識別する
五十嵐:貴社ツールにはどのような特徴があるのですか。
山口:我々のツールでしかできないのが「AIで感情を読み取る」ということです。広告配信は消費者とのコミュニケーションです。ライトパーソン、ライトプレースとライトモーメント、つまり、その人が今、何を気にして、何を見たがっていて、どういうものに興味が注がれているのかを考慮した上でのコミュニケーション、つまり広告配信ができている状態であることが非常に重要です。
五十嵐:これまで、インターネットの広告配信においては、「どこに出すか」と「誰に出すか」について注目されていましたが、それだけではなくそこに掛け合わせるモーメント、つまりその人の熱量が高い瞬間を狙う、それがコンテキストターゲティング、ということなのでしょうか。
山口:おっしゃるとおりです。例えばお子様がいる男性が、車を買い替えたいと思って車を調べている際、どのような車の広告が出てくるのがベストなのかは、人それぞれであり、タイミングやコンテキストが非常に重要になります。人によっては自分用の趣味の車が欲しい方もいれば、家族用にミニバンを調べている方もいます。人それぞれの「閲覧動機」という意味でモーメントという考えは非常に大切だと考えています。
五十嵐:同一人物だったとしても、Twitterを見ているときとInstagramを見ている時では心境が違ったりしますからね。その時々の配信対象の心境、文脈に合わせた広告配信がAIによって自動化されるのは非常に強みだと思います。Cookieレス対策というイメージが強かったコンテキストターゲティングですが、そもそも文脈に合わせた広告を配信するということ自体に既存のターゲティングを凌駕した成果が期待できるのですね。
山口:そうですね。GoogleのサードパーティーCookie廃止が決行されたとしても、慌てる必要はないと思います。
五十嵐:来るべきその時に備えて、コンテキストターゲティングに舵を切り、取り組んで知見を貯めていくべきですね。
山口:はい。Cookieレスが本格化する前に取り組めていれば、前後で成果を比較することができますし。
五十嵐:リスクを払拭するためだけではなく、新しいテクノロジーを駆使して今以上の効果を出していく、という考えに切り替えて、ご理解いただくことが非常に重要ですね。
本日はありがとうございました。
- ライター:TRUE MARKETING編集部