インフラを担う企業としての使命を果たす。GO住澤崇氏インタビュー
「どうする?GOする!」のCMでおなじみのタクシーアプリ『GO』を提供している、GO株式会社。アプリダウンロード数は1,800万を超え、ビジネス・プライベートの両シーンで多くの人々の移動を支えています。
今回は、そんなGOのマーケターとして働く住澤崇さんに、同社のマーケティング戦略や事業活動についてお聞きしました。そのお話からは、同社の「国内のインフラを支えている」という事実に対する誠実な姿勢が見て取れました。
(執筆:サトートモロー 進行・編集:GMO NIKKO株式会社 ストラテジックプランナー 神津洋幸 対談聞き手:GMO NIKKO株式会社 アプリマーケティングエキスパート 吉田純也)
No.1※タクシーアプリ『GO』
※ data.ai調べ|タクシー配車関連アプリにおける、日本国内ダウンロード数(App Store/Google Play合算値) 調査期間:2020年10月1日〜2023年9月30日
神津:
まずは、GO社の提供するサービスについてご紹介いただけますか?
住澤:
はい。弊社は「移動で人を幸せに。」というミッションを掲げてサービスを展開しています。中核のサービスである『GO』は、タクシーを利用したいお客様とタクシーをマッチングさせ、タクシーの注文ができるアプリです。
それ以外には、タクシーアプリ『GO』の法人サービス『GO BUSINESS(ゴービジネス)』、商用車の交通事故削減を支援する次世代AIドラレコサービス『DRIVE CHART(ドライブチャート)』などを提供しています。また、タクシー産業の脱炭素化を目指す『タクシー産業GXプロジェクト』も推進しています。
神津:
タクシーや移動をキーワードとして、多角的に事業を展開しているのですね。『GO』アプリはダウンロード数が1,800万を突破したとのことですが、国内での普及はどこまで進んでいるのでしょうか?
住澤:
ありがたいことに、利用者数は増加し続けており、現在は45都道府県と国内の大部分をカバーしつつあるという状況です。
神津:
なるほど。すでに多くの利用者がいる一方で、まだまだ普及する余地があるのですね。
吉田:
アプリユーザーは、若い世代の方々が多いのでしょうか?
住澤:
そうですね。20〜40代の若い世代のお客様が比較的多いです。ただ『GO』はビジネス用途のお客様が多い印象を抱かれますが、プライベートで利用する女性のお客様も少なくありません。ちょっとした移動や歩き疲れてしまった時の移動手段として、コスパやタイパの観点で私たちのアプリを便利だと感じてくださっているのかもしれません。
神津:
それは興味深いですね。住澤さんは、なぜこのタクシーアプリの世界に飛び込もうと思ったのですか?どのような経緯で、GO社へ入社したのでしょうか?
住澤:
私は広告代理店でキャリアをスタートさせました。そこで約10年間、デジタルマーケティングの領域で働き続けた後、前職であるロボットベンチャーに転職してマーケティング全般に携わりました。
前職で一通りの仕事に関わらせていただいたと感じ、新しい世界で挑戦したいと思っていた時にGOと出会いました。会社のことを調べるうち当社の「移動で人を幸せに。」というミッションに共感し、ここで働きたいと思いました。
私は出身が大阪で、高齢者になった両親には近い将来、免許返納などの現実が待っています。しかし自家用車がなくなれば、両親の生活範囲が限定されてしまう、もっと言えば2人の世界が閉ざされてしまうのではという不安がよぎりました。
当社はタクシーアプリだけでなく、交通に関する社会課題の解決にも広く取り組んでいます。この会社で働くことで、両親を取り巻く移動の問題を解消できるような未来に貢献できるのではと思ったのです。その後、私は2022年にGOへ転職しました。
純粋想起の機会を増やすさまざまな仕掛け
神津:
『GO』アプリのマーケティング戦略について伺えればと思います。『GO』と言えば、私が思い浮かべるのは俳優・竹野内豊さんが扮する上司と部下のやり取りを、コミカルに描いたテレビCMです。GO社はこうした広告を巧みに活用して、視聴者の「タクシーアプリと言えば『GO』」という純粋想起を促す戦略に成功しているように思います。
住澤:
おっしゃる通りで、タクシーに乗りたいという感情が生まれた時、「どうする?GOする!」というテレビCMの言葉が自然と想起されることを非常に重視しています。タクシーアプリというのは、世の中に必要不可欠ではありません。実際、これまでタクシーは駅にいたり路上で走ったりしているのを、呼び止めて乗車する乗り物でした。
その習慣を「アプリで注文する」に置き換えると、意外と便利だということに気づいてほしい。大げさに言うと、私たちはタクシー利用における「価値観のマインドチェンジ」を引き起こすために、メディアを活用しています。
「価値観のマインドチェンジ」を起こすには、神津さんがおっしゃる「純粋想起」がとても重要です。純粋想起を引き起こすメディアとして、やはりテレビがもっとも有力だと考えています。これまでのフェーズでは特に、しっかりとしたクリエイティブをテレビに投じて、「タクシーといえば『GO』」という意識を広めていくことを重視してきました。
神津:
なるほど。そういう意味では、「タクシーといえば『GO』」という認知度は十分獲得できつつあると思います。今後は新たなフェーズで、何をしていくのでしょうか?
住澤:
1,800万ダウンロードを突破した今もなお、まだまだ成長段階にあるでしょう。しかし同時に、今後は新規顧客の獲得と並行して、『GO』を愛用してくださるお客様に目を向けた施策を展開していくフェーズに入りつつあると捉えています。
神津:
ロイヤルユーザー化を進めていくわけですね。GOにおけるロイヤルユーザー化が何を指すのか、とても気になります。タクシーというのは、決して週1回から週5回と利用頻度が増えるような移動手段ではないと思いますから。
住澤:
そうですね。ロイヤルユーザー化によって、タクシーの利用頻度がたとえば3倍になるということは起こり得ないでしょう。どちらかというと、『GO』の利用体験をどのようによりよくするかが大切だと思います。
『GO』の使い心地をより高めていくことで、『GO』への愛着を深めていただくというのが、私たちのやるべきことではないでしょうか。
吉田:
『GO』を長く利用したいと思える体験を提供していくということですね。
住澤:
はい。そしてこれは、マーケティングだけで実現できる施策ではないと考えています。アプリの使い勝手がいいという体験も重要ですし、キャッシュレス決済がスムーズという『GO Pay(ゴーペイ)』の利用体験の向上も必要でしょう。
それに加えて、ストレスなくタクシーに乗車できるという、「供給の問題」もクリアしなくてはなりません。
吉田:
コロナ禍をきっかけにタクシー乗務員が激減し、インバウンド需要が回復しても供給が追いついていないというのが、深刻な問題になっていると聞いています。とはいえ、この問題はGO社だけで解決できないと思いますが。
住澤:
実は今、『GO』を起点に業界における新しい乗務員の働き方を提案しています。『GO』アプリからの注文のみを受けるアプリ専用車両を作り、1日5時間からのパートタイムで働ける専用乗務員が運転するという取り組みです。乗務員になるハードルが下がり、大学生、女性、副業ワーカーといったこれまでタクシー業界とは縁が無かった層の採用がいま増えているんです。
神津:
GO社が業界の構造改革にも関わりつつあるのですね。
住澤:
私たちは、「タクシーのDX化」という重要なミッションも担っています。タクシー業界が、次世代の働き方にシフトチェンジするお手伝いをしていきたいです。
タクシー利用を左右する強力な変数
神津:
GO社でマーケティング活動を進めるにあたり、住澤さんはどのようなことを重視していますか?
住澤:
GOのマーケティングにおいて、私はオフラインとオンラインの両輪で考えていくことが非常に大切だと考えています。例えばテレビCMや屋外広告などのオフラインでは、「『GO』って面白いよね」というイメージを持っていただくことが欠かせません。
そして、デジタルで「タクシーアプリ」などを検索した時には、もれなく『GO』のアプリをダウンロードしていただけるためのマーケティング施策を行う。この両者のバランスが、新規ユーザー獲得には必須だと思っています。
神津:
想起と獲得のバランスが重要ということですね。
吉田:
デジタルにおける検索〜流入の経路は、どのような傾向が見られますか? 『GO』というアプリ名の指名検索と「タクシーアプリ」など一般キーワードの検索では、どちらが多いのでしょうか?
住澤:
指名検索と一般キーワードの検索は、割合としては同程度です。それ以外には、検索エンジンで検索する方もいれば、アプリストアからの検索でアプリをインストールする方もいるなど、流入経路は多種多様です。
神津:
お客様がアプリを使いたいと感じる瞬間を、予想することは可能なのでしょうか?どのような時、タクシーアプリを使いたいというニーズは生まれやすいのでしょうか?
住澤:
タクシー利用ニーズが顕著に高まる要素には、季節・天候の2つが挙げられます。例えば、真夏の猛暑日はタクシーを利用するお客様が急増します。台風や大雨が多い時期も、タクシーアプリのダウンロード・利用数は増えやすいです。
とはいえ、天候などを正確に把握することは困難なので、マーケターとしては悩みのタネでもあります(笑)。こうした要素を予測するというよりも、変数として季節・天候の傾向を把握しつつ、マーケティング活動を行うのが重要と言えるでしょう。
インフラを担う企業として挑む「社会課題の解決」
神津:
冒頭のお話の中で、GO社はインフラにまつわる社会課題解決にも挑戦していると教えていただきました。具体的にどのような活動をしているのですか?
住澤:
直近の活動というと、観光地でのタクシー供給不足という問題に対して、2023年9月にある取り組みを発表しました。それは、観光地の1つである北海道のニセコで、オーバーツーリズムによる交通課題を解消するための『ニセコモデル』を12月から開始します、というものです。
この取り組みでは、北海道ハイヤー協会、倶知安町、ニセコ町をはじめ多くの地元関係者のご協力のもと、札幌など別の営業区域からニセコエリアにタクシーおよび乗務員を応援派遣して、『GO』アプリで注文を受けられるようにします。
インバウンドのオーバーツーリズムによる課題解消に向けたタクシー活用 『ニセコモデル』の立ち上げを開始 今冬、倶知安町・ニセコ町に札幌・東京などから応援車両を派遣 | GO株式会社
吉田:
ニセコというと、スキーシーズンでのタクシー需要に備えた取り組みということでしょうか?
住澤:
はい。スキーシーズンである数ヶ月間のタクシー需要に応えられるよう、ニセコエリアにおいて期間限定でタクシーを増やすという形です。当社は交通という社会インフラを担う企業として、地方の交通課題に向き合うことが使命だと捉えています。今回の『ニセコモデル』で一定の成功を収められれば、日本国内の似たような問題を抱える地域でも同じモデルを展開できるでしょう。
吉田:
紅葉シーズンの京都や夏の沖縄など、『ニセコモデル』を求める地域は多いと思います。将来的に、『ニセコモデル』が広まる可能性は十分にありますね。
神津:
「移動に困っている方々にタクシーを配車する」という観点を越えた、「移動に困っている地域にタクシーを提供する」という観点で、GO社は挑戦を始めたのですね。
誠実な姿勢でチャレンジし続けたい
神津:
住澤さんから見て、GO社の魅力とはどのような点にありますか?
住澤:
経営陣が考える、会社の未来のビジョンを聞ける場がいくつも用意されている点です。例えば、当社では週1回の全社ミーティングがオンラインで開催され、そこで経営陣の考えを聞けます。また半期に1回の全社会では、オンライン・オフラインを交えて会社の状況や未来の方向性が発表されます。
普通に仕事をしていると、どうしても目の前の業務に集中してしまいがちです。会社という船がどこに向かおうとしているのかを言語化してもらうことで、会社の意思を感じ取りやすくなります。その機会に恵まれているのが、GOの魅力と言えるでしょう。
また、GOは現場に任せる環境も醸成されています。現場が「やってみたい」と考えたことが、トライしやすいです。
神津:
素敵な環境ですね。その中で、住澤さんは今後どのような活動をしていきたいですか?
住澤:
リアルサービスである以上、誠実さを忘れずにさまざまなチャレンジを重ねていきたいと思っています。これは、GOのマーケティングで気をつけていることでもあります。
GOではテレビCMなどで、ちょっとした笑いを提供できるようなエンタメ要素を取り入れています。しかし、一方で私たちはインフラを担っており、お客様の生命を預かっているという事実を忘れてはいけません。
だからこそ、奇をてらったコミュニケーションをよしとせず、お客様への誠実さを起点にマーケティング活動をしていきたいと考えています。
神津:
とても大切な基本方針ですね。
住澤:
また、これまではテレビCMや電車広告を通じて新規ユーザーを獲得してきましたが、今後は口コミによるユーザー獲得も進めていきたいです。
マスメディアをうまく活用した広告で、利用者を増やし続けるというのは、限界を迎えつつあります。マーケターとして、「『GO』っていうアプリすごく便利だよ」というコミュニケーションが生まれる仕組みも考えていきたいですね。
神津:
新たな流入チャネルを考えていくのは、難しいと思いますがマーケターの腕の見せ所でもありますね。
住澤:
それに、『GO』アプリに蓄積された1,800万人分の行動データも、うまく活用していきたいです。膨大なデータからお客様がどのような移動の悩みを抱えていて、それをどのように解消できるのか。データから得られる知見を、アプリの利便性改善やマーケティング活動の精度向上に活かせれば、もっとお客様に貢献できると思います。
- ライター:神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
- ストラテジックプランナー、リサーチャー。Webプロモーションの戦略立案、Web広告効果の分析・オプティマイズ、各種リサーチなどを担当。前職はマーケティングリサーチ会社にて主に広告効果の調査・分析・研究業務に従事。2004年より現職。
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