旅行会社だからこそ提供できる「旅の豊かさ」をTaaSプラットフォームで届ける ANA X 森田將裕
「旅の専門家として、お客様の旅をさらに快適に、さらに便利にしていきたい」
日本の空の移動を支え続けてきたANAグループの一社、ANA X株式会社は、2024年4月22日に「TaaS( (Travel as a Service)プラットフォーム」構想を発表しました。この構想はスマートフォンひとつで旅行に伴う検索・予約・管理をシームレスに完結させるサービスであり、3月26日には第一弾として国内宿泊予約機能の拡充を行っています。
TaaSプラットフォームは今後2026年に向けて飛行機での移動・宿泊以外のサービスも順次拡張していくとのこと。TaaSプラットフォームは、サービス拡充の先にどのような姿となり新たなサービス提供によって人々の旅はどのように変化するのでしょうか?
構想発表に至った経緯と今後の展望について、旅行事業推進部の森田將裕さんに神津洋幸(GMO NIKKO ストラテジックプランナー)がお伺いしました。
(執筆:サトートモロー 進行・編集:神津洋幸)
旅行会社の提供してきた「便利」という価値を最大化させる
神津:
ANA Xが発表した「TaaSプラットフォーム」構想は、どのような経緯で誕生したのでしょうか?
森田:
TaaSプラットフォームは、ANAグループが提供できる価値を最大限に高めて、お客様に快適な旅体験をご提供したいという想いから生まれました。
私は、関西国際空港が開港した1994年、ANAグループの株式会社トラベル・エー(現ANAあきんど株式会社)に入社しました。大阪支店、札幌支店を渡り歩くなか、旅行の商品企画から販売、添乗とあらゆる業務を担当しました。
弊社では2005年より、他社に先駆けて航空券と宿泊、オプションを自由に組み合わせられる旅行プラン「ダイナミックパッケージ」をスタートさせています。私は東京に異動した後、国内外におけるダイナミックパッケージのシステム構築に関わりました。
この約30年の歴史で、旅行のあり方は大きく変化しました。旅行会社の店頭で販売するパッケージツアーからウェブで販売するダイナミックパッケージが主流になり、さらにはスマートフォンの普及によって、お客様が自ら旅行計画を立てて航空会社のウェブサイトやOTA(Online Travel Agent)などで直接、航空券・宿泊施設の予約を行う旅行形態が増えてきました。
このデジタルシフトの流れはコロナ禍でさらに加速し、旅行会社の店舗に来店されるお客様は大きく減少してきています。
神津:
最後に旅行会社を訪れたのは、何年も前ですね……。
森田:
私たちが展開してきたパッケージツアーやダイナミックパッケージは、安い・予約が取れる・便利という三つのメリットが人気の商品でした。しかし最近では、安い・予約が取れるというメリットが薄れつつあります。
航空券も宿泊施設も、公式ウェブサイトなどを活用すれば安く予約・購入ができるケースが増えてきました。また、旅行会社に頼めばGWや年末年始の繁忙期でも、比較的簡単に予約を確保できましたが、最近ではそうとも限りません。以前はツアー企画のために、航空会社や宿泊施設様の在庫を預かっていましたが、近年は両事業者とも独自に在庫をコントロールしているからです。
そのような中でデジタル領域に力を入れている私たちは、「便利」という価値を磨きあげていきたいと考えました。
昨今、旅行のさまざまなシーンがデジタルに置き換えられていくことで、お客様の予約体験はますます便利になってきています。その領域で、私たち独自の「便利」にフォーカスし独自の価値を見出していく。
そのために取り組みはじめたのが、TaaSプラットフォーム構想だったのです。
他社とも連携しながら旅行にともなうストレスを解消したい
神津:
ANA X、ひいてはANAグループが提供できる便利さとは、具体的にどのようなものですか?
森田:
私たちのTaaSプラットフォームを活用することで、お客様は予約にまつわるさまざまなストレスから解放されます。
旅行のときに困るのは、宿泊施設や航空券をバラバラに購入した場合、予約をしたり、予約情報を確認するにはそれぞれのウェブサイトにアクセス・ログインする必要があるという点にあります。各サイトで商品を検索し、予約番号、ID、パスワードなどの情報をお客様がご自身で管理しなければなりません。
神津:
確かに、「航空券の搭乗日は合っているかな」「ホテルは正しく予約が取れているかな」といった情報を確かめるのに、大きな手間暇がかかっていますね。
森田:
TaaSプラットフォームを用いることで、航空券や宿泊などの情報を纏めて確認・管理できるようになります。パッケージツアーやダイナミックパッケージのような便利さを、よりアップデートしたサービスとしてお客様に提供していくわけです。
ちなみに、私たちはこれまで飛行機での移動を前提としていたサービスを展開していたため、宿泊施設のラインナップも北海道・沖縄・東京といったエリアが中心でした。長野県や山梨県など、電車・自動車での移動が多い首都圏近郊のエリア等に対応できずにいたのです。
そこで、弊社はトラベルサービスに強みを持つ Agoda Company Pte. Ltd様と株式会社リクルート様との提携を決定しました。両社のサービスと連携することにより、他の旅行サービスと遜色ないバリエーションを実現したのです。
神津:
飛行機移動のお客様に限定したサービスではなく、より幅広いお客様に対応できるようにしたのですね。
森田:
飛行機にしろホテルにしろ、一つひとつのプロダクトはコモディティ化されてきています。だからこそ、私たちは商品ラインナップを拡充するとともに、それらをより便利にご利用できるという点を強く推していきたいと考えています。
2026年でのサービスの完成に向けて何をするのか
神津:
ANA XのTaaSプラットフォームは、3月26日に第一弾がリリースされましたね。先ほど森田さんが話したように、そこでは宿泊施設の予約における体験価値が大幅にアップデートされました。
TaaSプラットフォームをさらに便利にするため、今後どのようなアップデートを控えているのですか?
森田:
7月24日に国内レンタカーの予約サービスをリリースしました。さらに今年度中にアクティビティを予約できる機能も追加していきたいと考えています。国内で展開するプロダクトはすべて、今年度中あるいは2025年度にはリリースしていきます。
また、2025年度以降に海外旅行のサービスをリリースして、2026年度中にTaaSプラットフォームの完成を目指します。
神津:
思った以上に続々と新機能がリリースされていくのですね!旅行にまつわるあらゆる体験が、ひとつのサービスで完結するというのは、旅行者にとって非常に便利だと感じます。その利便性を、ANAが提供するということにどのような意味をもたらすのでしょうか?
森田:
いくつか考えられますが、最たるものが「マイルを活用した旅行機会の創出と拡大」です。マイルを貯めるといった行動は、お客様にとってさまざまなメリットをもたらしてきました。しかし、その使い道の大半はフライトに関するものに限定されていました。
TaaSプラットフォームのアップデートにより、マイルは航空券に加えて宿泊、レンタカー、アクティビティなど、旅行のあらゆるアクションで貯まり、また使えるようになるのです。週末での家族とのレジャーや夏休みの長期旅行、出張時のレンタカー使用やホテル宿泊。飛行機を伴わない旅先でのアクションが、すべてマイルにつながります。
神津:
マイルの用途が格段に広がるのですね。旅行体験の向上というと、近年は観光MaaSも話題です。TaaSプラットフォームは今後、MaaSとはどのように関わっていくことになりますか?
森田:
TaaSプラットフォームでも今後、MaaSとうまく融合していきつつ、旅ナカの体験価値の向上を図っていきたいと考えています。
MaaSへの取り組みとして、ANAグループでは昨年7月より「旅CUBE(キューブ)」の展開を開始しました。「旅CUBE(キューブ)」では、空港アクセス検索に加えて、旅行・出張・日常移動における、出発地から目的地までのあらゆる経路検索が可能です。
例えば「東京から札幌に行きたい」という場合、自宅から羽田空港までの経路、飛行機での移動経路、千歳空港から札幌までの経路を検索・表示します。目的地の滞在時間に合わせた経路の再検索、移動手段の予約や確認ができるほか、お得なクーポンも取得できます。
こうした既存のサービスとTaaSプラットフォームをうまく融合させることで、旅行における一次交通(観光地への移動)・二次交通(観光地内への移動)すべてを網羅できるはずです。
旅ナカでのあらゆる行動を一元管理。最適化したサービスを提供
森田:
機能のアップデートという観点でいうと、ANAが持つお客様の移動情報をより活用して、お客様にパーソナライズドしたコミュニケーションの質を高めていきたいと考えています。
神津:
といいますと?
森田:
例えば、これから羽田空港、高松空港を経由して香川県に旅行するお客様がいるとします。私たちはお客様のフライト予約の情報を、いち早く獲得しているという状態です。そこで、お客様に現地でのおすすめグルメの情報を提供したり、到着日に合わせたおすすめのホテルを案内するといったコミュニケーションができます。
神津:
なるほど。お客様の交通情報をもとに、ホテルやアクティビティ、グルメの提案ができるということですね。
森田:
TaaSプラットフォームは今後のアップデートを通じて、旅ナカでのあらゆる予約を一元管理できるようになります。その予約情報から旅行中の予定表を作成でき、その内容に基づいた通知を送信できるようになるのです。
現在、ANAのアプリでは航空券をご予約いただいたお客様に対して、搭乗に関わるインフォメーションが通知されます。それと同じように、「まもなくレンタカーの予約時間です」「アクティビティの開始時刻です」といった情報を通知できるようにしたいと考えています。
神津:
旅行中の予定をひとつのプラットフォームから確認できるだけでなく、プラットフォーム側からも今後の予定を知らせてくれるわけですね。それが実現されれば、旅行が格段に便利になりますね。
森田:
また、特に海外旅行の場合、言葉が通じない中、現地でのトラブルに不安を覚える方はたくさんいます。そんなお客様に、例えば「現地サポートプラン」のようなサービスを用意して、何かあった場合にお客様のもとに駆けつけられるリアルなサービスもご提供できれば、その不安を大きく解消できると考えています。
神津:
現時点において、プラットフォームに蓄積されているデータは限定的だと思います。今後の機能追加を経て、TaaSプラットフォームはお客様が欲しい情報・求めるサービスをより洗練してレコメンドできるようにアップデートされていくのですね。
森田:
そうですね。現状、旅行のおすすめ情報やお役立ち情報を伝える場合、ウェブサイトやメール、アプリなどでの、一律のご案内がメインになっています。TaaSプラットフォームによって、お客様の様々な旅のデータが蓄積されることで、お客様個人に最適化された情報やクーポン、特典がお届けできるようになるなど、コミュニケーションの精度を向上できるでしょう。
人とAIを活用して旅をより豊かに
神津:
先ほど、今後2〜3年におけるTaaSプラットフォームのアップデート情報や、今後実装したい機能などについて教えていただきました。そこから一歩踏み込んで、その先の未来でこのプロダクトをどのように進化させていきたいか、展望を教えてください。
森田:
移動、宿泊、アクティビティとサービスを拡大させるなかで、コミュニティ機能などを実装できれば面白いなと考えています。
旅行先の施設やホテルの情報に関する、お客様の感想といった生の声は、旅行ではとても重要な情報源です。今後取り扱う商品・サービスが増えるのに伴い、弊社のサービスにも口コミ機能として追加していきたいと考えています。
それと合わせて、ANAグループの強みを活かしてANAグループ社員によるレコメンドといった情報も、提供できるようにしたいと考えています。私たちの世代と比べて、20代など若い世代のお客様は、旅行などの体験に対して「失敗したくない」という想いが強い気がします。
そんな方々にとって、「旅の専門家」である私たちからの情報は、旅行を楽しむうえで信頼できる情報源になると思うのです。
神津:
現地を旅した方々の声と、旅のプロであるANAグループの皆さんの声。両方の声を聞きながら旅行の計画を立てられるのは、非常に魅力的ですね。定番の旅プランはもちろん、旅行先の隠れた魅力などに気づける機会になりそうです。
森田:
こうした「人によるレコメンド」に加えて、「AIによるレコメンド機能」にも着手したいと考えています。旅行会社の店舗に行くと、旅の予定についていろいろと質問され、それに答えながら旅行計画を立てていくでしょう?
「ご家族やご友人との旅行ですか?それともおひとりでの旅行ですか?」
「ご予算はいくらですか?」
「目的地は決まっていますか?」
「どんな体験がしたいですか?」
こうしたやり取りをAIと交わすうちに、お客様にぴったりな旅行プランをご提案できるところまで、TaaSプラットフォームがサポートできるようにしたいなと。
神津:
よりデジタルの強みを活かした進化にも、力を入れていくわけですね。
森田:
そうですね。ANAグループは長年、お客様の旅が豊かになるようさまざまなサービスを展開してきました。今後、TaaSプラットフォームでデジタル技術を積極的に活用しながら、さらなる旅の利便性・快適性をお客様に提供していきたいと考えています。
- ライター:神津 洋幸(こうづ ひろゆき)
- ストラテジックプランナー、リサーチャー。Webプロモーションの戦略立案、Web広告効果の分析・オプティマイズ、各種リサーチなどを担当。前職はマーケティングリサーチ会社にて主に広告効果の調査・分析・研究業務に従事。2004年より現職。
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