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「マーケターのように生きろ」著者井上大輔氏インタビュー~大切なのは相手視点に立った価値提供~

2021.05.27Premium Contents
「マーケターのように生きろ」著者井上大輔氏インタビュー~大切なのは相手視点に立った価値提供~

「マーケターのように生きろ」をご出版された井上大輔氏にインタビュー。
マーケターのように生きるとはどういうことか井上さんのご経験をもとに語っていただきました。

相手視点に立つこと

五十嵐:今回「マーケターのように生きろ」を読んでみて特に印象に残ったのは、マーケティングのハウツーだけではなく、生き方そのものにフォーカスされた内容だったということです。まずは出版されたきっかけを教えていただけますか?

井上:ボランティアで何人かのメンター(キャリアの相談相手)をやらせてもらっているのですが、「自分のやりたいことがよくわからない」「突き抜けられるような何かが自分にはない」と思い悩んでいる人が多いと感じていました。

でも、それは当たり前の悩みで、そうでない人のほうが圧倒的に少数派だと思うのです。自分のやりたいことがはっきりしていて、その領域で突き抜けることができる。そんな人はほんの一握りですよね。そういった人たちは、要は天才なので、自己啓発本などは自分では読まずに、自分の道をただひたすら突き進んで成功する。そうした成功者たちが成功体験を綴ると「好きなことで突き抜けろ」となる。

成功体験は真実ですし、貴重です。それに触発された新たな天才を社会にもたらす、という意味で大きな価値がある。しかし、そこには、「やりたいことがない」「突き抜けられる何かがない」という状態への対応策はあまりないのです。すると、大多数の人は、結果的には生き方を変えることができない。そんな人にむけて本を書きたい、と思って執筆しました。

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五十嵐:自己啓発本とかを読んでいると「こうしなきゃいけない、でもなかなかできない」と思うことが多かったのですが、井上さんの本を読んでいると「これでいいんだ、自分が頑張ってきたことは間違いじゃなかったんだ」という安心を感じました。

幅広いキャリアをお持ちの井上さんが考える「マーケターが必ずやっておいたほうがいいこと」はどんなことがありますか?

井上:相手(顧客)を理解することだと思います。当たり前すぎてつまらない答えかもしれませんが、これが実際にはなかなか徹底されないのは、簡単に言われる割に、その実とても難しいからではないでしょうか。その難しさがマーケティングの面白さだと個人的には思うのですが。もう少し詳しくいうと、「顧客を理解することはとても難しい、と心得つつも、あの手この手でそれに挑戦すること」という感じですかね。簡単だと思ってしまうと、すでにできていると勘違いしたり、逆にできないとすぐに諦めたりしてしまうので、顧客を理解することは難しい、とまず心得ることが大切と考えます。

五十嵐:「マーケターのように生きろ」の中で、相手視点に立つことで多くの人が共感できる価値を提供している例としてアーティストの西野カナさんの話も出ていますよね。

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井上:自分のやりたいことをやって、結果それが人を喜ばせる、という芸術家タイプの人もいれば、相手が自分に求めることをやって喜んでもらうという「エンターテイナー」もいます。エンターテイメントって、日本語にすると接待なんですよね。接待は英語で「エンターテイメント」なんです。

全く門外漢なので想像になってしまいますが、アーティストの中にも両方のタイプがいるのではないかな、と思います。先日、ある売れっ子芸人の方に、お笑いの世界ではどうなんですか?と聞いたら、売れているのはここでいうエンターテイナーのほうだ、と即答していました。つまり、自分が面白いと思うことを追求する人、ではなく求められる笑いを提供できる人です。

五十嵐:その相手視点で考えるという考え方はどんな体験があってそう考えるようになったのですか?

井上:お恥ずかしい話、本当の意味でそれが理解できるようになったのは、それほど昔の話ではありません。色んな仕事での成功体験を通じて、徐々に身についてきたイメージです。その成功体験には、外部への情報発信なども含まれます。例えばコラムなどを書いていて、自分が書きたいことを書きたいがままに書いた場合は、私は天才タイプ・芸術家タイプではないので、反応は得てしてあまりよくありません。読者が知りたいであろうことを想像し、それを読者の立場にたって説明すると反応がいい。そうした、自分にとって解りやすい成功体験が糧になったと思います。

補足すると、私は、人は失敗より成功体験からより多くのことを学べると考えています。成功者は失敗から学ぶ、的なことがよく言われますが、あれは擬似相関なんじゃないかと。つまり、成功する人は打席に立つ回数が多く、そうなると成功する数も失敗する数も増える。

失敗した経験は辛いですが、脳は辛いことはなるべく忘れるようにプログラムされています。そうでないと誰もが精神を病んでしまう。そんな自然の摂理に反して失敗から学ぼうとしてもあまり効果がないように思います。だから、人は同じ失敗を何度も繰り返すわけで。とにかく打席に立って、失敗も成功も増やしながら、その中の成功から学ぶということを心がけています。

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相手が求めている価値の見つけ方

五十嵐:ここからは相手が求めている価値をどうやって見つけるのか?について詳しくお聞きしたいと思います。

井上:価値については3つの種類があると考えています。

1つ目は自覚されていて公言もされる価値、2つ目は自覚はしているけど口には出さない価値、そして3つ目は顧客自身がそもそも自覚していない価値です。このうち、1つ目を見つけるのはさほど難しくないですが、2つ目や3つ目、とくに3つ目は一筋縄ではいきません。自覚していない以上は当然公言もされないのですから、文字通り探っていく必要があるのです。ここは奥深い領域なので一言では説明しづらいですが、一つのポイントは「観察力」だと考えます。

以前勤めていたグローバル企業で、日用品のECがあまり盛り上がっていない、という課題を世界中の支社で共有していました。そこで、消費者のお宅を訪問してインタビューをする「ホームビジット」という調査をすることになりました。そんな調査の折訪れたお宅で、ワインのボトルがテレビの横に飾ってあるのを発見しました。素敵なボトルでしたが、特別に高級なワイン、というわけでもなさそうです。

理由を聞いてみたところ、子供と一緒にスーパーへ買い物に行ったとき、お子様から「かわいい!」とせがまれて買ったものだと話してくれました。そのワインのエチケット(ラベル)には、可愛い小鳥のイラストが描かれていたのです。その話を聞いたときに、スーパーでの買い物は、不便なところもあるけど楽しさもあり、ときに思い出にすらなるのだ、と気づきました。それこそがECで日用品を買うときに欠けていることなのではないか、と。日常的な買い物でも、スーパーには思い出がいくつかあると思いますが、ECで買い物をした「思い出」ってないですよね。

そこで、どうやったらECで日用品を買うことを楽しい体験にできるかと考え、ある企画を思いつきました。いい商品ながら、パッケージが変わったなどで在庫がかさんでしまったものを詰め合わせ、大きな割引をつけて福袋として常時販売する、というアイデアです。これは実店舗だとスペースをとってしまうので実現しづらいですが、ECであれば実現可能です。この企画は、ある小売企業さんに提案し採用され、ヒット企画とになって他のメーカーでも展開されるようになりました。

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五十嵐:気づきを得たら仮説を立ててそれを検証するステップを踏むと思いますが、仮説を立てていく上での方法論はありますか?

井上:まず「インプット」をすることだと思います。仮説=アイデア、とも言えますが、アイデアがアウトプットできない人は「発想力」のようなスペックに問題があるのではなく、インプットという燃料が足りないていないのだと思います。アイデアがたくさん出てくる人は、よく本を読んでいたり、積極的に人と会っていたり、意識して知識をインプット・蓄積しているイメージです。インプットは、知識になると同時に刺激にもなります。すでに脳内にある情報と、あたらしいインプットがもたらす刺激が化学反応を起こしアイデア=仮設がでてきたりもする。先程の「ホームビジット」のような調査も、たくさんの知識と刺激を与えてくれる貴重なインプットの機会です。

コロナが生活者に与えた影響について

五十嵐:コロナによって社会の様々な領域に影響を与えています。生活者の行動や意識にも変化が数多く生じていると思うのですが、井上さんは何に一番変化を感じていますか?

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井上:マスクや除菌グッズが売れるようになった、海外旅行や出張にはいかなくなったなど、必然的な変化はいくつかありますが、生活者の行動原理というか、根本的なところは変わっていないと思っています。私は甘いものや脂っこいものが本能的に好きで、それがゆえに摂りすぎて健康診断で注意されたりしますが、この本能は数万年前に糖分や脂質が貴重だったから発達したものですよね。見つけたらありったけ食べておけ、と。人間の本質や本能って、このように数万年単位で変遷していくものだと思います。ですので、コロナといえど、人間の根本を変えることはできないのではないでしょうか。

五十嵐:人間の根本的なところはそう簡単には変わらないということですね。
それではコロナの影響有無は関係なく井上さんが今期待している変化やトピックはありますか?

井上:イベントなどでモデレーターとしてお声がけいただく機会が多いのですが、そこで培ったモデレーションのスキルって、これまではあまりほかで活かす機会がないなと思っていました。ただ最近はモデレーターとしてのスキルがいろいろなところで重宝され、モデレーターがヒーローになる機会も増えたと感じています。クラブハウスが典型で、クラブハウスではいいスピーカーよりいいモデレーターに人気が集まりますよね。モデレーションのノウハウを語るルームもいくつか出来たりしています。逆に延々と自分語りをする人には白けた視線が注がれます。

モデレートって標準的な、とか、中庸な、という意味ですが、これまではどちらかというと対局にある「エクストリーム」な人がヒーローになることが多かったと思います。
これからは、その反動で、調和型の人、中庸な人、つまりモデレートな人がヒーローになる時代が来るのではないか、と直感的に思っています。

五十嵐:最後にお聞きしたいのですが、どんな人に「マーケターのように生きろ」を読んでもらいたいですか?

井上:老若男女幅広い人に読んでもらいたいですね。Amazonのレビューで嬉しかったのが、定年退職されてこれからのキャリアに悩んでいる方が「若い人向けの本なのかな?と思って読んでみましたが、本を読んだことをきっかけに、人の役に立つことを意識してなにかを始めてみようと思うようになりました」と書いていただいていたことです。そのレビューひとついただけただけでも、この本を書いてよかったなと思いました。

ベテランの方も若手の方も、読んでみて考え方が変わった、ちょっとだけでも人生が変わったと感じてもらえるととても嬉しいです。

五十嵐:私自身は就活生と相対することが多いのですが、就活は人生で初めて「自分の強みは何か?」とか「自分は何ができるのか?」を考えるタイミングだと思います。そんな時に是非「マーケターのように生きろ」を読んでもらいたいですね。

本日はありがございました!

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今回インタビューをお受けいただいた井上様の書籍「マーケターのように生きろ」の直筆サイン本を10名様にプレゼントいたします。

マーケターはもちろん、全てのビジネスパーソンが参考になる生き方について語られています。

プレゼントは下記より必要事項をご記載の上、ご応募ください!
※応募締め切り 2021年7月20日

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【「マーケターのように生きろ」概要】
「何者でもない自分」が最強の武器になる生き方

「やりたいこと」なんてなくていい。
「相手がしてほしいこと」をしよう。ただし、とことん、徹底的に――。

マーケティングの英知が生んだ【4ステップ】で
「仕事」「キャリア」「副業」「プライベート」…すべてで「求められる人」になれ!

STEP1 「自分がもっとも輝く場所」が見つかる…………市場を定義する
STEP2 「相手が本当に欲するもの」がわかる……………価値を定義する
STEP3 「自分がやるべきこと」がわかる…………………価値をつくりだす
STEP4 「自分を必要とする相手」に見つけてもらう……価値を伝える

井上 大輔(イノウエ ダイスケ)
マーケター。ソフトバンク株式会社 コミュニケーション本部 メディア統括部長。
ミュージシャンを志すも挫折。小さな広告会社でプランナーの仕事を始める。当初はまったく仕事のできないお荷物社員(本人談)だったが、マーケティングの英知から学んだ「仕事とは人の役に立つこと」という思想に目覚めて以降、仕事にかぎらずあらゆる場面で「必要とされる」ようになる。以降ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパンなどでマネージャーを歴任。ヤフー株式会社MS統括本部マーケティング本部長を経て現職。
雑誌・Web媒体への寄稿や講演会・セミナーへの登壇多数。NewsPicksアカデミアプロフェッサー。著書に『デジタルマーケティングの実務ガイド』(宣伝会議)など。

TRUE MARKETING編集部
ライター:TRUE MARKETING編集部
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